中東かわら版

№53 サウジアラビア・UAE・カタル:ターリバーンの政権奪取への反応

 2021年8月15日、アフガニスタンでターリバーンが首都カーブルを制圧し、ガニー政権が事実上崩壊した。これを受けてサウジアラビア・UAE・カタルの三国が活発な動きを見せているが、明確なスタンスは示しておらず、例えば(1)ターリバーンの行動への非難、(2)ターリバーンが原因でアフガニスタン国内情勢が悪化することへの懸念、(3)国外脱出したガニー(元)大統領への支持、(4)アフガニスタンからの米軍撤退への批判等の声明は出されていない。さりとて、ターリバーンへの明確な支持も示しておらず、アフガニスタン国内の混乱が収まり、住民の生命や財産が守られるようにとの期待を表明するにとどめている。要するに、いずれの国も様子見をしている状況だ。

 一方で三国が、役割分担する形でアフガニスタン情勢に反応していることも事実である。サウジは22日、イスラーム協力機構(OIC)の緊急会合を呼びかけて、「将来のアフガニスタン指導部」に和解を通した国内の安定化を求めることを加盟国間で確認した。UAEは18日、国外脱出したガニー(元)大統領を「人道的立場」から受け入れたことを発表するとともに、同様に国外脱出した米国外交官やアフガニスタン市民を受け入れる旨を示した。またカタルは、ターリバーンと米国の和平交渉を仲介していた立場から、より直接的にアフガニスタン内政に関与する姿勢を見せている。具体的には、カタルを拠点としていたターリバーンのバラーダル副指導者兼政治局長や米国との協議を重ねた後、同副指導者をアフガニスタンに帰還させた。

 

評価

 サウジ・UAE・カタルは、基本的に様子見ととれる反応を見せているが、米軍の再駐留やガニー大統領の復権等を訴えることはせず、少なくとも現時点で、アフガニスタンの時計の針を戻そうとの思惑は見られない。ターリバーンへの支持(と受け止められる対応)を示すかどうかは、米国の対応や周辺過激主義勢力の動向(特にアル=カーイダ)に依ると思われるが、当面はターリバーンの政権樹立をありうべき展開と想定して行動するだろう。ここに見られる一種の楽観主義の背景にあるのは、ターリバーンがイランのような(サウジ・UAEが言うところの)拡張主義を持っておらず、基本はアフガニスタン国内の統治の問題に止まるとの考えだろう。もちろん、難民問題のように地域の不安定化を誘発する事案への懸念もあるが、これについてはUAEが貢献を名乗り出た。アフガニスタン国内での人道支援活動への表明とあわせて、米国に大きな貸しを作る思惑もありえよう。またカタルとしては、表向き、露骨な内政干渉をする可能性は低いだろうが、庇護してきたバラーダル副指導者兼政治局長を指導部に送り込むことで、今後のアフガニスタン国内の政治シーンで強いプレゼンスを確保することになる。

(研究員 高尾 賢一郎)

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