中東かわら版

№51 トルコ:アフガニスタン情勢に対するトルコの反応

  2021年8月15日、エルドアン大統領はイスタンブルで行われた、パキスタン治安部隊へのトルコ製MILGEMコルベット(大型水上戦闘艦)の引き渡し式典に出席した。エルドアン大統領は同式典での演説で、パキスタンはアフガニスタンに平和と安定をもたらす重要な義務があると語った。式典終了後、エルドアン大統領は参加していたパキスタンのアリフ・アルビ大統領と直接会談し、二国間関係や反政府武装勢力のターリバーンが首都カーブルに侵攻し、アフガニスタンのほぼ全域を制圧したこと等について協議した。同会談の中でエルドアン大統領は、南アジアの安定と平和をもたらす上で、パキスタンの役割は極めて重要であること、同地域の不安定化に起因するトルコへの新たな大規模難民流入への懸念は、トルコとパキスタンとの緊密な協力以外に防ぐことができないとの見方を示した。

 また同日、チャウシュオール外相は、アルジェリア出発を前にした記者会見で、アフガニスタンのトルコの在外公館および職員に対し必要な措置を講じたうえで、全ての領事業務が継続されていることを明らかにした。ターリバーンの動向を受け、出国を希望するトルコ国民がいる一方で、同国に残留する人々もいるため、トルコ当局はアフガニスタンの関係各所と連絡を取り合い、残留希望者の安全確保に向け努力しているとした。

 

評価

 トルコとパキスタンは歴史的な友好関係にあるが、ターリバーンに影響力を持つ同国との関係強化はトルコ国内の治安維持という点においても重要である。現在のアフガニスタン情勢の不安定化が招くトルコへの影響は大きく二つあると考えられる。

 第一に、アフガニスタンからトルコへ押し寄せる難民数の増加である。トルコは現在、意図的に「無秩序な移民」との表現を使用し、拘束した場合は即座に本国へ送還する措置を採っている。既にシリアから370万人、アフガニスタン、イラク等からも含めると約400万人近い難民がいるトルコに、これ以上受け入れる余力はない。8月15日、イスタンブル外国人送還センターは、2021年1月~7月までの7カ月間でトルコに不法入国した人々のうち、もっとも多かったのがアフガニスタン国籍者の1万2893人だったと発表した。アフガニスタン情勢が悪化するにつれ、トルコ国内での拘束者数も増えており、政府は危機感をあらわにしている。エルドアン大統領は、同国からイラン経由でトルコに不法入国するケースが大半であることから、イランとの国境にあるヴァン県に壁を建設して難民の流入を阻止することを表明している。

 第二に、カーブル国際空港の運用をめぐる問題である。トルコは2015年から同空港に約500人の部隊を派遣して空路維持を担ってきた。トルコ政府は米国と、NATOの任務が終了し、米軍の撤退後も同国が財政支援や後方支援を行うことを条件に、トルコ軍の任務継続を提案、交渉してきた。だが、想定よりも早くターリバーンが全土を掌握したことにより、日本も含め多くの大使館が国外退避を決定しただけでなく、外国人もカーブルを離れている。今後、同地の外交団のプレゼンスが低下し、空港にトルコ軍を駐留させる必要がなくなる可能性も出てきた。トルコ政府は、16日時点で、空港に配備されているトルコ軍への否定的な進展や脅威はない、としているが、空港駐留を継続するためにはターリバーンとの合意が不可欠となる。今後の状況がどう変化するかは不透明ながら、バイデン政権との関係改善を模索するトルコは、対アフガニスタン政策の見直しと同時に、米国への外交カードを失う局面に立たされていると言えよう。

 

(研究員 金子 真夕)

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