中東かわら版

№49 アフガニスタン:中部ガズニー州・西部ヘラート州・南部カンダハール州を含む7州の州都がターリバーン側に更に陥落、激しい攻防が続く

 2021年8月10日~12日の3日間で、ターリバーンは更に7州の州都を制圧した。先立つ8月6日~9日の4日間には6州の州都がターリバーン側に陥落していた(詳しくは「中東かわら版」No.46参照)。これにより、陥落した州都の数は全34州の内13州都に達した。

 新たにターリバーン側に陥落したのは、西部ファラー州都ファラー、北東部バグラーン州都ポレ・ホムリー、北東部バダフシャーン州都ファイザバード、中央部ガズニー州都ガズニー、西部ヘラート州都ヘラート、西部バードギース州都カラエ・ナウ、及び、南部カンダハール州都カンダハールの7州都(図1参照)。12日に陥落したガズニー州では、同州のラグマーニー州知事がターリバーンと密約を交わし、ターリバーンに入城を許す代わりに、知事自身の身の安全を確保したと報じられている。同知事は、隣州を逃亡中、治安部隊に逮捕された。

 

図1ターリバーン側に陥落した13州都の位置関係(2021年8月13日時点)

 (出所)筆者作成。

 

 混乱を回避するため、8月10~12日にドーハで行われた米・中・露・パキスタンが参加する「拡大版トロイカ会合」では、アブドッラー国家和解高等評議会議長がアフガニスタン政府側の和平案を提示した。同議長によれば、この和平案には、アフガニスタン政府・ターリバーンが共同参画する政権樹立への道筋が提示されている。また、12日付「アルジャジーラ」は、アブドッラー議長がホスト国カタルを介し、ターリバーン側に権力分有をオファーした旨報じた。アフガニスタン国内ではターリバーンの猛攻が収まる気配がない情勢のなか、カタルにおいて対話を通じた紛争解決に向けて努力が続けられている。

 厳しい状況において、プライス米国務省報道官は、アフガニスタンの米国大使館は活動を続けると述べた上で、文民退避のために米軍3000名を派遣すると述べた。差し迫った脅威が迫り、外交官・援助関係者の国外退避が加速している。

評価

 首都カーブルと南部随一の都市カンダハールを結ぶ戦略的要衝ガズニー州の中心部がターリバーン側に陥落したことで、ターリバーンがカーブルに王手をかける危険性が真実味を帯びてきた。西部ヘラート州と南部カンダハール州の陥落も、政権側には大きな打撃だ。全34州の内13州の州都がターリバーンに制圧され、政権側の劣勢が鮮明となっている。既に、残された選択肢は「現政権とターリバーンとの妥協を通じた移行政権樹立」か「ターリバーンによる武力を用いた簒奪」かのどちらかに狭まっている。ターリバーンが主導権を握りながら戦況が推移する状況下、後者の事態を外交努力で回避できるかどうかの正念場だ。

 これ程までにターリバーンが進撃を続けられる背景には、アフガニスタン国家治安部隊が、忠誠心・士気の低さ、空軍能力の欠如などの弱点を抱えており、ターリバーン側がこの急所を効果的に突いたことがある。ターリバーンは米軍撤退に合わせて一気呵成に攻撃を加えるとともに、投降した特殊部隊員らを処刑するなど、国際法違反も厭わずに民衆と治安部隊に恐怖を与え続け、「モラル崩壊」を引き起こした。これによって、治安部隊は雪崩を打つように敗走した。また、ターリバーンは空軍パイロットの暗殺も敢行した他、幹線道路や国境検問所を襲撃するなど、緻密に練られた軍事戦略を背景に勢力圏を飛躍的に拡大させた。現状、治安部隊が失地を回復するのは困難と呼べる状況である。

 正確な人口統計こそないが、カーブルは500万人以上の人口を擁するといわれる大都市であり、もし市街地で戦闘が勃発すれば多数の民間人死傷者の発生は避けがたい。「武力を用いた簒奪」を回避するには和平合意締結が焦眉の急だが、問題はターリバーン側には現時点において譲歩すべき理由がほとんどないことである。その一方、米国は米軍撤退を覆さない方針を示しており、ターリバーンに対して行使できる軍事的抑止力を持っていない。こうした状況にあるため、今後、政治的解決を図るべく、ガニー大統領の権力放棄を含めて政権側に大幅な譲歩を迫る外圧が強まるだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「アフガニスタン:6州の州都がターリバーン側に陥落」No.46(2021年8月10日)

 

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「米軍撤退後のアフガニスタン和平の展望 ――1989年ソ連軍撤退から何を学べるか――」R21-02

(研究員 青木 健太)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP