中東かわら版

№46 アフガニスタン:6州の州都がターリバーン側に陥落

 2021年8月6日に南西部ニムルーズ州の州都ザランジが制圧されたことを皮切りに、9日までの4日間で、全34州の内6州の州都がターリバーン側に陥落した。ターリバーン側に陥落したのは、ニムルーズ州都ザランジ、北部ジョウズジャーン州都シバルガーン、北東部クンドゥズ州都クンドゥズ、北部サレポル州都サレポル、北東部タハール州都タロカン、及び、北部サマンガーン州都アイバックの6州都である(図1参照)。ターリバーン報道官や現地ジャーナリストらによってSNS上で拡散された映像等によると、ターリバーンは、州知事庁舎や治安部隊基地の他、地方空港や刑務所も制圧した。ターリバーンの進攻を受けて、治安部隊が一切抵抗することなく無血開城した事例もあると報じられている。巻き添え被害を避けるため、近隣州や首都には多くの国内避難民が流出した。さらに、西部ヘラート州、北部バルフ州、南部ヘルマンド州、及び、カンダハール州の州都に対しても、ターリバーンが猛攻を仕掛けている。

 

図1ターリバーン側に陥落した6州の位置関係(2021年8月10日時点)

(出所)筆者作成。

 

 厳しい治安状況を受けて、9日、ガニー大統領は元軍閥指導者らを含む有力政治家との会合を開き、武装蜂起した自警団を治安部隊と連携させるべく合同司令本部を設置することで合意した。また、先立つ4日には、ドーストム元帥(ウズベク人。国民運動党指導者、前第一副大統領)が療養中のトルコから帰国し、ターリバーンに徹底抗戦する決意をガニー大統領との会談において表明した。

 混乱を収束させるべく、米国も軍事・外交面での対応を取り始めた。バイデン米大統領はB-52爆撃機による空爆開始を指示し、7日夜にはジョウズジャーン州でターリバーン戦闘員らに対し空爆を実行させた。これによって、多くのターリバーン戦闘員が死傷した模様である。また、8日、ウィルソン駐アフガニスタン米大使は「アリアナ通信」とのインタビューで「ターリバーンはドーハ合意を遵守していない」と断じた上で、状況を改善するためにはパキスタンを関与させることが不可欠だとの考えを述べ、外交的圧力を強める姿勢を示した。

 同時に、政治的解決に向けた国際的な外交努力も平行して続いている。8月10~12日の3日間、カタル政府がアフガニスタン和平に関する関係者協議をホストし、アフガニスタン、米国、及び、国連が参加予定である。アフガニスタン側からはアブドッラー国家和解高等評議会議長(タジク人。ガニー大統領に次ぐナンバー2)が参加する。また、6日には、アフガニスタン政府の要請に基づき国連安保理特別会合が開かれ、混乱の回避が呼びかけられた。

 

評価

 ターリバーンは5月頃から農村部を主戦場として支配領域を拡大してきたが、ここへきて軍事攻勢を更に激化させいくつかの州都にまで勢力を伸長させた。7月時点において、ターリバーン・カタル政治事務所は、州都への攻撃を当面は控える方針をロシア訪問時の記者会見で示していた。そのような経緯を踏まえると、ターリバーンが複数の州都を制圧し、さらに勢力を拡大させようと猛攻を仕掛ける様子からは、アフガニスタン紛争が新たな段階――同胞同士の権力闘争――に突入したといえる。

 もっとも、ターリバーンは公式には、①外国軍完全撤退、②イスラーム統治の実現を目標に掲げており、アフガニスタン諸勢力を包摂する国家体制樹立を目指す姿勢を崩していない。それにもかかわらず、ターリバーンは無辜の市民に危害を及ぼすことさえ厭わず、都市部への攻撃に着手した。この過程では、数百人以上の民間人が殺害されている。こうしたなかでも、国際世論は、バイデン米政権による「無責任な撤退」の決断が治安悪化の原因と酷評している。ターリバーンの現下の攻勢には大義(祖国の救済、「占領軍」の駆逐、など)が見いだせず、その殺戮行為が第一に非難されるべき対象であることは明らかだ。米国に国際的な批判の矛先を向けさせることができたのは、ターリバーンが米軍撤退に合わせて一気呵成に猛攻を仕掛ける軍事戦略の「成功」と呼べるだろう。

 今後、過去3カ月間に掌握した農村部を足掛かりに、ターリバーンは軍事的圧力を更に強める可能性が高く、邦人保護の観点からは退避計画も検討・実行に移すべき局面だ。但し、諸外国の外交官・援助関係者が一斉退避すれば、アフガニスタン国民に少なからぬ動揺を与えることになる。また、ドーハを中心に和平プロセスは続いている。現時点で、ターリバーンは協議の枠組みから離脱する姿勢は示していないことから、ターリバーン指導部は配下の軍事委員会には各州で軍事攻勢を続けさせ、カタル政治事務所には協議を続けさせる「硬軟両戦術」を採っているのだろう。日本政府を含む国際社会としては、過去20年間の遺産を台無しにせぬよう、慎重且つ難しい対応を迫られる。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「米軍撤退後のアフガニスタン和平の展望 ――1989年ソ連軍撤退から何を学べるか――」R21-02

(研究員 青木 健太)

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