中東かわら版

№45 チュニジア:ナフダ党内の対立激化

 2021年7月31日、サイード大統領が25日に議会の一時停止を発表したことを受け、ナフダ党の若手党員グループは党執行部に対し、国民の政治経済的な要求を満たせなかったことと、社会的緊張の緩和に失敗したことの責任を負うよう求め、執行部の即時解散を訴えた。また、国会議長でもあるガンヌーシー党首の責任にも言及し、議会の早期再開に向けて必要な措置を講じるよう要求した。なお、ガンヌーシー党首は昨年9月より約100人の党員から党首辞任の要求を受けており、党内で彼に対する不満の声は日々高まっている。

 今後の去就が注目される中、ガンヌーシー党首は8月4日の諮問評議会の会合で、自身の進退に関して言及せず、党活動方針の見直しに向けて引き続き責務を担う意向を示した。

 ナフダ党内の対立が激化する現状下、司法当局はナフダ党関係者(諮問評議会メンバーや党首付き警備官)や保守系イスラーム主義政党・尊厳連合の議員を相次いで逮捕するなど、サイード大統領が司法を利用して連立与党に圧力をかけている側面がみられる。

評価

 ナフダ党内でのガンヌーシー批判の背景には、彼が党規約の2期任期制限を順守せず、長年党首の地位にいることに対する不満がある。ガンヌーシー党首は1981年にナフダ党の前身「イスラーム志向運動」を創設し、1992年より党代表に就いている。その後、2007年の第8回党大会で党首任期の2期制限規定が導入されたものの、ガンヌーシー党首は同規定に従わず、党内の人事権と予算権限の影響力を行使しながら現職を維持している。こうしたガンヌーシー長期体制に党員らは不満を募らせており、大勢の党員からの辞任要求や幹部の離党が生じる状況下、サイード大統領の緊急事態条項を用いた権力掌握がナフダ党内の亀裂を大きくしたと言える。

 今後の政局次第では、ナフダ党が分裂の危機に瀕する可能性もある。サイード大統領が7月25日に全議員の免責特権を剝奪した後、司法当局は数年前の容疑まで遡及して議員の逮捕に踏み切っている。ナフダ党には2019年議会選挙時の外国資金の違法受領に関する容疑がかけられており、ガンヌーシー党首も含めたナフダ党議員53人が逮捕、起訴される恐れもある。この先、サイード大統領がナフダ党を政敵とみなす状況が続けば、離党を決断する党員も増加すると予想され、その場合に組織の弱体化は避けられないだろう。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「大統領が首相解任と議会の一時停止を発表」No.42(2021年7月26日)

・「ナフダ党に対する司法調査の開始」No.44(2021年7月29日)

<中東トピックス>【会員限定】

・「チュニジア:ナフダ党を取り巻く政治的緊張と地域情勢」T21-04(2021年7月号)

 

(研究員 高橋 雅英)

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