中東かわら版

№42 チュニジア:大統領が首相解任と議会の一時停止を発表

 2021年7月25日、サイード大統領はマシーシー首相の解任、30日間の議会停止、及び全議員の免責特権剥奪を発表した。同発表の背景には、COVID-19感染状況の深刻化や経済悪化を受けてマシーシー政府に対する抗議デモが各地で活発化し、一部のデモ隊が暴徒化するなど、社会不安が高まっていたことがある。こうした状況を受け、サイード大統領は緊急事態時の大統領の特別措置を規定する憲法第80条の適用を決定し、次期首相の任命まで執行権を担う見通しである。

 同発表に対し、ガンヌーシー国会議長は、同大統領が憲法と2011年革命に対するクーデターを開始したと強く非難した。

評価

 今般の政治的混乱の根本には、革命後のチュニジア政治における大統領・首相間の主導権争いがある。ブルギバ、ベン・アリー両政権期は大統領に強大な執行権が付与されていた一方、革命後の歴代政権では、大統領への権力集中を避けるため、大統領は「国家元首」、首相は「行政の長」である旨を規定する半大統領制が採用された。しかし、シブシー前大統領やサイード大統領は大統領の専管領域(外交や安全保障)以外の分野でも、政府の政策決定過程に介入し続けたことで、大統領・首相関係の歪みが政治の行き詰まりを引き起こす要因となっている。

 今次発表の注目点は、反ナフダ党感情が高まる状況下で行われたことである。反政府デモの発生はCOVID-19感染対策や経済状況に対する不満に起因するが、スーサやモナスティール、スファックスなどの主要都市ではデモ隊がナフダ党の事務所を襲撃したことから、実務者内閣のマシーシー政府を支えるナフダ党も国民からの批判の的になっている点が見られる。今年5月にサイード大統領が憲法第80条の適用を検討しているとニュースサイト『Middle East Eye』が報じた点も踏まえると、同大統領は反政府・反ナフダに傾く世論を利用し、国民に寄り添う姿勢をアピールすることで、同条項適用の正当化を図ろうとしていると言える。

 今後は、政治的混乱の長期化が懸念される。サイード大統領は国の安定化に向けて早期に首相を任命し、通常体制が戻り次第、議会を再開する方針を示しているが、具体的な期日を明言していない。憲法第80条によると、議会停止に係る一連の措置の継続可否は憲法裁判所が判断するが、判事任命をめぐる混乱から憲法裁判所が依然として未設置のままである。そのため、サイード大統領が法的根拠を欠く中で一方的に措置継続を決定した場合、連立与党ナフダ党・チュニジアの心党・尊厳連合からの猛反発が予想されて、各党支持者が反大統領を掲げる抗議デモを活発化させる恐れもある。

(研究員 高橋 雅英)

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