中東かわら版

№41 アフガニスタン:政府高官がターリバーンと直接交渉

 2021年7月17~18日、アフガニスタン政府代表団が、ドーハに於いてターリバーン代表団と直接交渉をした。政府側からは、アブドッラー国家和解高等評議会議長(タジク人。ガニー大統領に次ぐ国のナンバー2)、ハリーリー元副大統領(ハザーラ人。国民統一党指導者)、ヌール元バルフ州知事(タジク人。イスラーム協会の重鎮)らが参加した。一方、ターリバーン側の代表もバラーダル副指導者兼カタル政治事務所代表(パシュトゥーン人。アーホンドザーダ指導者に次ぐナンバー2)が務めており、これまで累次行われた和平交渉と比して、最もハイレベルなメンバーでの協議となった。

 協議終了後、政府・ターリバーンは共同声明を発出した。参加者らによる主要な合意事項は、以下の通りである。

 

  • 今後、和平交渉を加速化させ、最終合意に達するまで交渉を継続すること。
  • アフガニスタンにおけるすべての女性と男性の利益と要望が、イスラームの原則に照らして、満たされる合意を達成すること。
  • 民間人のインフラを保護し、民間人被害を予防するとともに人道支援を行うこと。
  • 新型コロナウイルス感染防止のため、全土で活動するワクチン接種従事者の安全を保護すること。酸素やその他の必要物資を届けるため、適切な措置を講じること。

 

 また、7月18日、ターリバーンのアーホンドザーダ指導者(パシュトゥーン人)はイード・アル=アドハーに際して祝意声明を発出し、アフガニスタン問題の「政治的解決」を強く支持するとの立場を改めて明らかにした。

評価

 今次協議は、アフガニスタン国内で治安情勢が悪化の一途を辿るなか、政府・ターリバーン双方が紛争の政治的解決を目指す姿勢を鮮明にした点で前向きな動きと評価できる。本年4月14日のバイデン米大統領による米軍撤退発表以降、ターリバーンが農村部を中心に激しい軍事攻勢を仕掛けたことで、全国の4分の1以上がターリバーン側に陥落した(詳しくは「中東かわら版」No.38参照)。近い将来に政府が崩壊するのではないかとの憶測すら飛び交いはじめた状況下、紛争当事者双方が指導部の信任を受けた代表団を派遣したことは、お互いの本気度を表しているといえよう。

 他方で、2020年9月から和平交渉が始まっていたにもかかわらず、これまでアフガニスタン政府が本腰を入れていなかった事実が浮き彫りになったともいえる。アブドッラー議長自らがドーハに乗り込んだ背景には、アフガニスタン国内での戦況悪化に基づく切迫感と諸外国からの圧力があると考えられる。交渉開始時点では、アフガニスタン政府は現在ほどターリバーンに攻め込まれておらず、その時点で権力分有に関する交渉をする用意ができていなかったと思われる。今般、苦しい状況に至ってようやく重い腰を上げたわけだが、結果としては、和平交渉における政府の立場は相対的に弱くなったといわざるをえない。

 今次協議での合意内容を見てみると、アフガニスタン国民が求める恒久的な停戦、及び、暴力削減が含まれておらず、実質的な進展はあまり見られなかった。2日間の協議では、移行政府樹立を含めた政治的ロードマップ、憲法、囚人釈放、ターリバーン幹部の国連制裁リストからの除外等も議論されたようではある。しかし、双方が納得いく形での合意には至らなかったと見られる。実際のところ、戦場での軍事的成果が将来の権力に直結するとの考えに基づけば、現在、ターリバーンは有利な立場にあり、交渉において譲歩すべきだとは感じていないであろう。そうであるならば、将来の国家体制に関して、ターリバーンは己の要求事項を主張し続けることになるだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「アフガニスタン:ターリバーンとの和平交渉が開始」2020年度No.77(2020年9月14日)

(研究員 青木 健太)

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