中東かわら版

№36 アフガニスタン:ターリバーンが民間外国人・外交団・慈善事業団体に脅威を与えない方針を表明

 2021年6月29日、ターリバーンは、民間外国人、外交団、及び、慈善事業団体等に治安上の脅威を与えない方針を表明した。同方針は、ターリバーンの広報・宣伝媒体「ジハードの声」に掲載された「イスラーム首長国」名義の声明上で示されたものである。同声明の全文は以下の通りである。

 

  • 過去の経緯と最近の情勢に鑑みて、アフガニスタン・イスラーム首長国は今一度すべての者に対し、当方から民間・非軍人の外国人、外交官、大使館・領事館職員、及び、慈善事業団体に問題を起こしたり脅威を与えたりしないことを言明する。
  • 彼らは、普段通りに外交活動や慈善事業を続けることができる。また、イスラーム首長国が関わる限りにおいて、彼らの不可侵に対して責任を果たす。
  • この問題に関して、如何なる者もイスラーム首長国に懸念を抱く必要はない。

 

評価

 今次声明は、米軍撤退発表後、アフガニスタン国内治安情勢が著しく悪化する状況下で発出された。2021年4月14日の米軍撤退発表以降、各地で少なくとも70郡以上がターリバーン側に陥落した。アフガニスタン全土には407郡あることから、短期間に全土の約6分の1をターリバーンが制圧し支配領域を拡げた計算になる(注:その後、アフガニスタン国軍と武装蜂起した住民が一部地域を奪還した)。現在、激しい軍事攻勢を受けて、ターリバーンが再び国内を混乱に陥れようとしているのではないかとの疑念が深まっている。ターリバーン側には、今次声明を通じて、こうした疑念を払しょくする狙いがあるものと考えられる。

 もう一つのターリバーンの狙いとして、諸外国が期限通りに駐留軍を撤退させるよう促すことが挙げられる。現在、外国軍撤退後も、米国が自国の大使館護衛のために駐留軍600~700名を残す計画や、トルコがカーブル国際空港の警護・運営のために駐留軍の派遣を検討中である旨が報じられている。ターリバーンにとって、「占領」の延長とも呼べるこれらの動きは、何としても避けたい事態である。したがって、ターリバーンは今次声明で、外交団を標的としないので外国軍撤退後に護衛の必要はないと示すことで、諸外国に対して公約を反故にしないようけん制しているのだろう。

 もっとも、今次声明は、ターリバーンが外部からの批判をかわすために一時しのぎで発出したものというよりも、長いスパンでの統治方針の変化に由来するものと解釈すべきだ。例年、ターリバーンは、攻撃・警告対象を明示する形での春季攻勢宣言を発出してきたが、2019年の「ファトフ作戦」宣言以降発出を取り止めた。過去の春季攻勢宣言の内容を見ても、外国機関に対する攻撃・警告内容を簡略化・曖昧化する傾向が見られる(詳細は「イスラーム過激派モニター」M20-02【会員限定】参照)。また、ターリバーンは6月24日、ターリバーン制圧地域で住民に横暴な対応をとったりせず、投降した者には敬意を持って対処し、公共機関の機材・文書は破壊せず保存するよう、ハッカーニー副指導者(注:軍事部門に強い影響力を有する)名義の指示を下している。

 こうした一連の動きからは、ターリバーンが自らの優位を認識した上で、民心を掌握しつつ、諸外国との良好な関係も維持しながら、将来の国の統治に向けた準備を着々と進める姿勢が見て取れる。

 同時に、今次声明は、ターリバーンが、声明で挙げられた権益に対して破壊・略奪行為を実行する意図を、現時点では有していない様子を示している。これは、アフガニスタンで活動する日本大使館、JICA、及び、国連・NGO関係者への脅威レベルを評価する上で重要なポイントとなろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「米軍撤退後のアフガニスタン和平の展望 ――1989年ソ連軍撤退から何を学べるか――」R21-02

(研究員 青木 健太)

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