№35 リビア:リビアに関する第2回ベルリン会合
2021年6月23日、リビア和平に関する第2回ベルリン会合が行われた。今回の会合では、2020年1月の第1回会合に続き、リビア紛争の関係主要国と国際機関が一堂に集まり、紛争解決に向けて協議した。主な参加国は、主催国ドイツ、アメリカ、フランス、イタリア、イギリス、ロシア、トルコ、UAE、エジプト、アルジェリア、チュニジア、中国である。同会合終了後に発出された共同声明に盛り込まれた事項は、以下の通りである。
- 政治協議「リビア政治対話フォーラム(LPDF)」が採択した政治行程表に従い、2021年12月24日に大統領選挙及び議会選挙を実施すること。また選挙実施に必要な憲法上及び立法上の取り決めが制定されなければならないこと。
- 全ての外国部隊及び傭兵は遅滞なくリビアから撤退すること(※トルコが留保を付けた)。
- 治安部門改革として軍事組織及び警察を統一し、文民統制を徹底すること。
- 国連の対リビア武器禁輸措置及び停戦合意の違反者に対して制裁を適切に科すこと。
- リビア全土に透明かつ公正に富を配分すること。
- 中央銀行を統一し、同行の独立性を確保すること。
評価
第2回会合では主に外国部隊及び傭兵の国外退去と今年12月総選挙の実施の方針が確認されたのみであり、紛争解決に向けて大きな進展はなかった。前回会合以降のリビア情勢については、2020年10月にジュネーブ合意により停戦合意が実現し、2021年3月には国民統一政府(GNU)が成立した。最近では停戦合意の取り決めの一つであるシルト・ミスラータ間(停戦最前線の往来)の沿岸道路の通行が再開した点から、紛争当事者が停戦合意を遵守していく意向が確認できる。こうした状況下、関係主要国は情勢安定化の維持と復興事業の着実な実行を確保したい考えである。
共同声明の注目点は、トルコが「全ての」外国部隊及び傭兵の撤退に関する項目に留保を付けたことである。リビア紛争ではトルコ軍をはじめ、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」、トルコ及びロシアが派遣したシリア人の傭兵、スーダン及びチャドの反政府武装勢力などが戦闘に加わる。ただ、トルコは国連承認の前政府・国民合意政府(GNA)との合意に基づき派兵した経緯から、リビアでの駐留継続の正当性を主張する。一方の欧米諸国はロシアのリビアへの影響力を警戒し「ワグネル」を追い出したいことから、ロシア側に撤退を迫る環境整備のためトルコにも軍の引き上げを求めているのだろう。
12月総選挙に向けて課題となるのが、選挙実施に際しての法的枠組みの構築である。現在、憲法制定プロセスは停止しており、暫定憲法にあたる憲法宣言は紛争当事者が自陣に有利になるよう恣意的に修正されてきた。このような経緯を踏まえ、国連リビア支援ミッション(UNSMIL)は選挙の公平性確保と選挙後に予想される異議申立てに対応するための新たな法制度の制定を目指してきたが、現時点でリビアの各国内勢力から支持を得られていない。今後も法制度の構築ができない状況が続けば、12月総選挙の実施が不可能となり、紛争解決の政治行程表が停止することで情勢が再び悪化する可能性も考えられる。
(研究員 高橋 雅英)
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