中東かわら版

№34 サウジアラビア:イラン大統領選挙の結果への反応

 2021年6月22日、ファイサル・ビン・ファルハーン外相は滞在中のウィーンで、18日にイランで行われた大統領選挙の結果を受けて、「現地の実情」を踏まえて評価すると発言した。この趣旨として同外相は、イランの外交政策を決定するのは大統領でなく最高指導者であること、新内閣で誰がカウンターパートになるのかが重要であることを説明した。この上で同外相は、イラン核協議の推移を注意深く見守る旨を述べた。

 

評価

 サウジがイランの大統領選挙にさほど大きな関心を示さないのは、今に限った話ではない。この理由はファイサル・ビン・ファルハーン外相が端的に述べた通り、イランの意思決定者を最高指導者と見ているためだ。

 イランの大統領交代をめぐるサウジの中心的な関心は、核協議の推移とともに、イエメン情勢についての交渉を進める環境が整うかどうかにある。4月以降、サウジとイランの直接協議が進んでいると報じられ、サウジ側は当初これを否定した。しかし5月になると同外相が「イランとの予備的な協議をすでに開始した」と公の場で発言した。見方によっては、大統領選挙前の駆け込み外交とも映るが、サウジからすれば最高指導者が健在である以上は駆け込み外交は意味をなさず、イラン側(ロウハーニー大統領、ザリーフ外相)にも「レガシー作り」のような思惑は感じられなかった。

 むしろサウジとイランの直接協議を後押ししたのは、イエメン戦争の終結に向けた具体的なプロセスとしての必要性だ。実際、イラン、及びサウジ・イラン協議を仲介したイラクは、イエメン情勢が同協議の中心議題の1つであったと述べた。サウジが目指すイエメン戦争の終結とは、具体的に自国が3月に発表した停戦案であるが、このためにはイランによるアンサールッラー(通称フーシー派)への関与を一定程度以下に留める必要がある。イランの外交政策を決めるのは最高指導者だという認識の一方、彼への窓口となるどのような内閣が誕生するかはサウジにとっては重要な問題である。

 

【参考情報】

『中東分析レポート』R21-01「バイデン政権発足後のイエメン戦争」

『中東かわら版』No.33「過去最低の投票率でライーシー候補が勝利」

『中東分析レポート』R21-04「サウジアラビアの地域外交における諸課題−−−−ウラー宣言とバイデン米政権誕生を経て−−−−」

(研究員 高尾 賢一郎)

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