№32 トルコ:NATO首脳会議でバイデン米大統領と初の直接会談
エルドアン大統領は、6月14日に行われた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議のサイドで、米国のバイデン大統領と1対1で会談した。両首脳の直接会談は、バイデン大統領就任後初で、45分間にわたり行われた(その後、両国代表団を交えた会談を約40分実施)。同会談内容は非公開だったものの、終了後、バイデン大統領は「前向きで生産的」と評し、エルドアン大統領と多くの問題を進展させる方法についても協議し、二国間関係を発展させる見通しであると語った。
また、エルドアン大統領は、NATO首脳会議終了後の記者会見で対米関係について触れ、二国間関係において解決できない問題はない、両国の協力分野は問題のある分野よりも幅広い、と述べた。さらにトルコと米国は、効果的かつ定期的に直接対話チャネルを使用することに合意し、近くバイデン大統領がトルコを訪問する予定であることを明らかにした。
エルドアン大統領は同日、英国のジョンソン首相、ドイツのメルケル首相、ギリシャのミツォタキス首相、フランスのマクロン大統領らとも個別に会談した(会談内容はいずれも非公開)。
評価
バイデン大統領は1月に就任以来、各国の首脳らと個別に電話会談等を実施してきたが、エルドアン大統領との電話会談は4月まで行われなかった。トルコ国内では、両首脳の電話会談実施時期について度々報じられたが、米国側は「しかるべき時に」として、直接的な言及は避けてきた。両者の初の電話会談が実現したのは4月23日である。同日は、24日のアルメニア追悼記念日にバイデン大統領がオスマン帝国末期のアルメニア人迫害を「ジェノサイド(集団殺害)」と認める声明を発表する前日であった。事前に「ジェノサイド」と表現することをエルドアン大統領に伝えることが目的だったとみられるが、初電話会談が、トルコが神経を尖らせる問題に踏み込んだ、「事前予告」だったことは、両国の冷たい関係を表しているようにも思える。
こうした状況の中で行われた今般のエルドアン・バイデン両首脳による初の直接会談は、前述の問題のみならず、シリア情勢、東地中海情勢、F-35戦闘機、トルコのロシア製ミサイル防衛システムS-400導入などをめぐり、緊張関係が続く両国が歩み寄る機会となるかが注目されていた。先ずは二国間の対話を継続していくことで合意したものの、トルコが米国に強く求めているクルディスタン労働者党(PKK)とその派生組織クルド人民防衛隊(YPG)への米国の支援停止、米国側の最大の懸念であるトルコのS-400導入問題については、双方がこれまでの主張を改めて提示しただけにとどまった。
二国間に横たわる課題は当事国のみならず、ロシアや中東域内諸国も深くかかわっており、容易に解決できるものではない。緊張緩和にはまだ時間がかかると考えられるが、両首脳の直接対話が実現し、今後も首脳レベルの対話を継続することで合意に至ったことについては「半歩前進」と評価できよう。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「トルコ:米国のバイデン前副大統領発言の波紋」 2020年度No.60(2020年8月19日)
・「トルコ:米国によるトルコへの制裁発動」 2020年度No.116(2020年12月17日)
(研究員 金子 真夕)
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