№31 アルジェリア:前倒し下院選挙の暫定結果
2021年6月12日、下院・国民議会(定数407)の選挙が行われた。今般の選挙は、タブーン大統領が政治改革として実施した前倒し選挙である。15日には、国家選挙独立機構(ANIE)が以下のとおり暫定結果を発表した。
(1)投票総数など
有権者登録数 (うち海外有権者登録数) |
24,425,171 (90,0865) |
投票総数 |
5,625,324 |
無効票 |
1,016,220 |
全体の投票率 (国内投票率) |
23.03% (23.73%) |
(出所)国営通信「APS」及びニュースサイト「TSA」をもとに筆者作成。
(2)各党の議席数
政党・連合名 |
略称 |
議席数(2017年選挙からの増減) |
|
民族解放戦線 |
FLN |
105 |
(-56) |
無所属 |
78 |
|
|
平和社会運動 |
MSP |
64 |
(+34)※ |
民主国民連合 |
RND |
57 |
(-43) |
未来戦線 |
FM |
48 |
(+24) |
国民建設運動党 |
EL BINA |
40 |
(+25) ※ |
人民の声党 |
PVP |
3 |
|
良い統治戦線 |
FBG |
3 |
|
公正開発党 |
PJD |
2 |
|
新しい夜明け党 |
PFJ |
2 |
|
自由正義党 |
PLJ |
2 |
|
新しいアルジェリア戦線 |
FAN |
1 |
|
尊厳党 |
EL KARAMA |
1 |
|
新世代党 |
Jil Jadid |
1 |
|
※MSP及びEL BINAの議席増数は、2017年選挙の政党連合として得た議席数から算出。
(出所)国営通信「APS」及びニュースサイト「TSA」をもとに筆者作成。
評価
今回の選挙は2019年12月発足のタブーン政権下で初となる議会選挙であり、反政府デモが継続する状況で行われた。選挙結果の注目点として、投票率の低下と大統領支持政党の過半数割れが挙げられる。まず投票率について、選挙実施に反対する野党や反政府勢力によるボイコット活動により当初から低投票率が予想されたが、今回は2017年議会選挙(約37%)や2019年大統領選挙(39%)に比べて10ポイント以上も低下した。タブーン政権が反政府勢力との対話に応じず取り締まりを強化する中、政治改革の演出のために前倒し選挙を強行したことに多くの国民は納得しておらず、投票の棄権を選択したと言える。
次に、歴代政権を支持してきた連立与党FLN及びRNDは、議席数が合わせて約100も減少したことで議会での過半数を失った。両党ともブーテフリカ・タブーン両政権を一貫して支持したことが支持者離れの原因である。アルジェリアの権威主義体制下で両党ともが選挙で議席を失うのは初めてであることから(※内戦期の1997年議会選挙はFLNのみ敗北)、多くの国民が選挙を通じて現体制にノーを突きつけたことは特筆すべき点である。
こうした連立与党への不満や野党の不参加の恩恵を受けたのは、議席数を伸ばした無所属議員とイスラーム主義政党MSP及びEL BINAである。イスラーム主義政党の票が増えたのは、国民がイスラーム主義者に転じているわけではなくて、体制支持政党への反発として投票したと考えられる。特に、MSPはブーテフリカ政権時に連立与党の一角であったが、2012年に連立政権を離脱して政権と距離を置いていたのが今次選挙で功を奏した。
今後、新内閣の行方が注目される。連立与党FLN及びRNDは議会の過半数を確保するために、他政党との連立形成を強いられる。その一方、両党以外の諸政党は無所属議員を取り込むことで多数派を形成できる可能性が出てきた。次期内閣の人事は、首相や閣僚の任命権を持つタブーン大統領に委ねられるが、仮に同大統領が各党議席数を考慮しない形で実務家内閣を選定した場合、各党支持者は選挙での民意が反映されなかったと不満を募らせ、大統領への批判を強める恐れもあるだろう。
【参考情報】
<中東かわら版>
・「アルジェリア:内閣改造(ジェラード第3次内閣)と議会の解散」No.138(2021年2月25日)
・「アルジェリア:前倒しの議会選挙が6月12日に実施」No.144(2021年3月15日)
(研究員 高橋 雅英)
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