中東かわら版

№29 ヨルダン:ハムザ王子関係者逮捕と「世紀の取引」の関係

 2021年6月12日付『ワシントン・ポスト』紙は、米国の匿名外交官やCIA高官の話に基づき、4月にヨルダンのアブドッラー2世国王に反対する勢力が一斉に逮捕された件には、トランプ前政権によるイスラエルとサウジアラビアの関係正常化の試みが関係していたと報じた。

 同記事によると、4月に逮捕されたバーシム・アワダッラー元財務相とシャリーフ・ハサン・ビン・ザイド(王室メンバー)は、トランプ前大統領、クシュナー前大統領上級顧問、サウジのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子に対し、聖地エルサレムの管理者という役割を担うアブドッラー2世国王がイスラエル・サウジアラビア関係正常化の障害であると伝えていた。

 また同記事の筆者が独自に入手したと思われるヨルダンの捜査資料によると、2019年半ばからアンマンの外国公館(※記事は「米国と推測」と記述)は、ヨルダンにおいてハムザ王子(※一斉逮捕時に自宅軟禁に処せられた)がアブドッラー2世国王の対抗勢力としてどの程度の支持があるか、シャリーフ・ハサン・ビン・ザイドに尋ねていた。その後、ハムザ王子と一部の部族指導者との関係が緊密になり、またハムザ王子、シャリーフ・ハサン・ビン・ザイド、アワダッラー元財務相との関係が形成されたとされる。ヨルダン治安当局が反国王勢力を逮捕した日は、アワダッラー元財務相がサウジに出発する前日であったという。

 また米諜報筋によると、一斉逮捕後、イスラエルのモサドとシンベトは、両組織は「謀反計画」に関与していないとヨルダン王室に伝えており、同諜報筋はこのメッセージを「モサドとシンベトは関与していない、ネタニヤフ首相が関与した」と理解しているという。

 なお、今週からヨルダンの国家治安裁判所で本件の公判が始まる。起訴されたアワダッラー元財務相やシャリーフ・ハサン・ビン・ザイドらの罪状は、「体制不安定化を試み、国の安全と安定を脅かし、暴動を煽った」こととされる。

 

評価

 4月の一斉逮捕時には、アブドッラー2世国王体制に対して具体的にどのような脅威があったのか不明であった。しかしこの記事により、逮捕された人物がアブドッラー2世国王に対抗する勢力の形成を試み、さらに、トランプ政権の米国が「世紀の取引」の一環として進めたイスラエルとサウジアラビアの関係正常化計画に関与していたことがわかった。つまり、トランプ政権の関係正常化政策によって、ヨルダンのアブドッラー2世国王体制が不安定化する可能性があったということになる。トランプ政権は中東における米国の重要な同盟国・ヨルダンとの関係に亀裂を生じさせ、またヨルダンとサウジの関係にも不和をもたらしたことになる。

 バイデン政権は、トランプ政権時代のイスラエル偏重姿勢がもたらした影響を修復すべく、ヨルダン王室や諜報機関と対話を重ねる必要があるだろう。上記記事によると、近夏に国王側近がホワイトハウスを訪問する予定であり、バイデン政権もヨルダンとの関係を重視していると思われる。

(上席研究員 金谷 美紗)

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