中東かわら版

№28 イスラエル:ベネット内閣の成立

 2021年6月13日夜(現地時間)、国会(クネセト)でナフタリ・ベネットを首相とする8党連立内閣の信任投票が行われ、全議員120名中、賛成60、反対59、棄権1で承認された。連立に参加するアラブ系政党・ラアムのサイード・ハルーミー議員が、ネゲブ地方のベドウィン住宅の破壊に抗議して棄権した。また、野党・アラブ合同リストの3議員は、投票過程で連立内閣が賛成多数で成立する見通しが立った時点で反対票を投じた。わずか1票差ながらも、右派、中道、左派に加えて、アラブ系政党が初めて参加する連立内閣が成立した。2009年から連続12年間首相を務めたネタニヤフの時代が終わった。

 連立合意に基づき、「首相輪番制」が採用される。最初の2年間はヤミーナ党首のナフタリ・ベネットが首相を務め、その後の2年間をイェシュ・アティド党首のヤイル・ラピードが首相となる。

 ベネット新首相は、信任投票前の演説において、2年間の政治的行き詰まりからイスラエルを正常な道に戻すため、国内社会の分裂(ユダヤ人とイスラエル・アラブ、ユダヤ人社会の世俗派・超正統派の対立)の解決に取り組み、国の様々な共同体のリーダーたちが責任を持って行動すべきであると述べた。外交政策に関しては、ネタニヤフ政権と同様、米国のJCPOA復帰に反対した。これに対して、野党第一党の党首として反論演説に臨んだネタニヤフ前首相は、ヤミーナ党と新しい希望党を「フェイクの右派」と批判し、「この危険な左派政権を倒すために日々戦う」と述べた。

 

●連立参加政党(カッコは議席数)

・右派      ヤミーナ(7)、新しい希望(6)、イスラエル・ベイテヌ(7)

・中道      イェシュ・アティド(17)、青と白(8)

・中道左派/左派 労働(7)、メレツ(6)

・アラブ系    ラアム(4)

 

●第36次内閣:閣僚リスト 

首相

兼 共同体問題相

ナフタリ・ベネット

ヤミーナ党首;元経済相、宗教問題相、ディアスポラ相、教育相、ネタニヤフ首相補佐官(2006-08)

外相(2年後首相の予定)

ヤイル・ラピード

イェシュ・アティド党首;財務相(2013-14)

副首相 兼 法相

ギデオン・サアル

新しい希望党首;元リクード;内相(2013-14)

副首相 兼 国防相

ベニー(ビンヤミン)・ガンツ

青と白党首;元参謀総長

社会平等・年金相

メイラヴ・コーヘン

イェシュ・アティド党;女性

首相府付クネセト政府リエゾン担当相

兼 建設住宅相

兼 エルサレム問題・遺産相

ゼエヴ・エルキン

新しい希望党;元リクード;移民受入れ相(2015-16)、エルサレム問題相(2015-19)、環境保護相(2016-20)

農業・地方開発相

兼 辺境・ネゲブ・ガリラヤ開発相

オデッド・フォレル

イスラエル・ベイテヌ党;元移民受入省事務次官

通信相

ヨアズ・ヘンデル

新しい希望党;元青と白;通信相(2020);元ジャーナリスト

文化・スポーツ相

ヒリ(イェヒエル)・トロッパー

青と白

ディアスポラ問題相

ナッハマン・シャイ

労働党;元ジャーナリスト

教育相

イファト・シャシャ・ビトン

新しい希望党;元リクード;元建設住宅相(2019-20);女性

エネルギー相

カリーン・エルハラル

イェシュ・アティド党;女性

環境保護相

タマル・ザンドベルグ

メレツ党;女性

財務相

アヴィグドル・リーベルマン

イスラエル・ベイテヌ党首;元国防相、外相など

財務省付大臣

ハマド・アマール

イスラエル・ベイテヌ党;ドルーズ派

保健相

ニツァン・ホロヴィッツ

メレツ党首;元ジャーナリスト

移民受入相

プニナ・タマノ

青と白;移民受入相(2020-21)女性

諜報相

エルアザル・スターン

イェシュ・アティド党;元軍人事局長

労働・社会問題・社会サービス相

メイル・コーヘン

イェシュ・アティド党;元福祉・社会サービス相(2013-14)

公共治安相

オメル・バルレヴ

労働党

地域協力相

イサーウィー・フレジュ

メレツ党;イスラエル・アラブ、ムスリム

宗教問題相

マタン・カハナ

ヤミーナ党;空軍パイロット(1995-2019)

科学技術相

オリット・ファルカシュ・ハコーヘン

青と白;観光相(2020-21);戦略問題相(2020);女性

経済産業相

オルナ・バルビヴァイ

イェシュ・アティド党;元軍人事局長女性

内相

アイェレト・シャケド

ヤミーナ党;元法相(2015-19);女性

観光相

ヨエル・ラズヴォゾフ

イェシュ・アティド党;元柔道選手

運輸・道路安全相

メラヴ・ミカエリ

労働党首;女性

※ラアム党は、首相府の副大臣級ポストを得る予定。

(出所)クネセト現地紙などをもとに筆者作成。

 

評価

 2年間の政治的行き詰まりの期間にネタニヤフ首相と反首相勢力の対立は進行し、ついに反ネタニヤフ勢力が政策志向の違いを超えて連立政権の成立に漕ぎつけた。3月の総選挙で第一党となったイェシュ・アティドのラピード党首が首相輪番制において最初の首相を担当しない理由は、まずは右派政治家が首相になる方が右傾化した世論に受け入れられるとの判断があるとされる。

 ネタニヤフを首相としない新たな政府が成立したとはいえ、これまでのような政局の行き詰まりが解消されると考えることは早計である。反ネタニヤフだけを理由に政策志向性が大きく異なる政党が連立したため、国家予算の配分をめぐり政党間の対立や駆け引きが続き、審議が紛糾することが予想される。また、入植地問題や東エルサレム情勢に関して、連立内部で右派と左派・アラブ系政党が対立することも容易に予想できる。連立離脱をチラつかせて党の要求を突きつけることもあるだろう。下野したリクードが連立内の右派に連立離脱を持ちかけることもありえる。政策志向性の異なる8党による連立内閣は、すぐにでも少数派内閣に陥る(議会内で連立与党が少数派になる)可能性が大きい。

(上席研究員 金谷 美紗)

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