№27 イスラエル:イェシュ・アティド党とヤミーナ党を中心に連立合意
2021年6月2日夜(現地時間)、組閣を委任されていたイェシュ・アティド党のヤイル・ラピード党首は、リブリン大統領に連立内閣を形成できる旨通達した。組閣通達期限の6月2日当日まで各党が交渉した結果の通達であった。3月の総選挙後、リブリン大統領は第一党リクードのネタニヤフ首相に組閣を委任したが、期限の5月4日までに達成できず、第二党イェシュ・アティド党のラピード党首に組閣を委任していた。連立合意によれば、ヤミーナ党のベネット党首とイェシュ・アティド党のラピード党首が首相を2年ごとに交代で担当する。2009年から連続12年間、1996年から1999年の首相期間も含めると合計15年間首相でありつづけたネタニヤフの政権は、退陣に追い込まれつつある。
連立内閣には、イェシュ・アティド(17議席;中道)、青と白(8議席;中道)、ヤミーナ(7議席;右派)、イスラエル・ベイテヌ(7議席;右派)、労働党(7議席;中道左派)、新しい希望党(6議席;右派)、メレツ(6議席;左派)、ラアム(4議席;アラブ系)が参加する。イスラエル政治史上初めてアラブ系政党が連立に参加することが特徴である。他方、ヤミーナの議員1~2名が国会での内閣信任投票で反対票を投じる可能性があり、国会全120議席の過半数を超えられるかどうかの瀬戸際にある。信任投票の日程は6月7日以降に決定される予定である。
8党が署名した連立合意の中で、報道されている主な内容は以下の通り。
- ヤミーナ党のナフタリ・ベネット党首が2023年9月まで約2年間首相を担当し、その後、イェシュ・アティド党のラピード党首が現在の国会任期が終了する2025年11月まで首相を担当する。ラピード党首は2023年9月まで外相を担当する。
- 主な閣僚ポスト:国防相ベンヤミン・ガンツ(青と白)、財務相アヴィグドル・リーベルマン(イスラエル・ベイテヌ)、法相ギデオン・サアル(新しい希望)、内相アイェレト・シャケド(ヤミーナ)、運輸相メラヴ・ミカエリ(労働)、保健相ニツァン・ホロヴィッツ(メレツ)、公共治安相オメル・バール・レヴ(労働)など。
- 今後5年間の経済開発予算として30億シェケルを配分する。
- アラブ人社会の治安・組織犯罪対策予算として250万シェケルを配分する。
- アラブ系自治体のインフラ整備予算として今後10年間、2000万シェケルを配分する。
- 通称「カミニッツ法」(2017年成立。不法建造物の所有者に対する罰金刑を定めた法律。不法建造物はアラブ人地区に多い)の改正を国会で議論する。
評価
ラピード党首とベネット党首を中心に形成された連合は「変化ブロック」と呼ばれている。これは、ネタニヤフ長期政権で浸食された法の支配を取り戻し、汚職のない政治を行うことを意味している。総選挙が4度も行われた過去2年間、イスラエル政治はネタニヤフ支持派と反ネタニヤフ勢力に分裂した。後者は、ネタニヤフ首相が自身の政治権力を維持するために司法府を攻撃したり、自身に不都合なメディア報道がなされないよう圧力をかけた疑惑(公判中)などを非難し、首相に辞任を求め、彼のいない連立政権を目指した。その結果、「反ネタニヤフ」を共通目標に、右派・中道・左派に加えてアラブ系までが加わるという、以前では考えられなかった広範な連立が実現した。
連立に参加したアラブ系政党のラアム党(マンスール・アッバース党首)は、ベドウィン住民が多く住むネゲブ砂漠を支持基盤とする保守的なイスラーム主義政党である。ラアム党はアラブ人社会の諸問題を解決するためには、政策決定力のあるユダヤ系政党と協力する必要があると主張し、2020年末からネタニヤフ首相に接近した。連立交渉ではネタニヤフ首相との協力も囁かれたが、最終的には反ネタニヤフ勢力と協力するに至った。
「変化ブロック」の連立政権が実現するにはまだ障害がある。内閣信任投票の日程は国会議長が決定するが、国会議長は、「変化ブロック」と対立するリクードのヤリヴ・レヴィンである。「変化ブロック」はレヴィン議長やリクードが意図的に信任投票の日程を遅らせることを懸念し、6月7日にも新国会議長の選出と内閣信任の採決を行うよう求めている。
また、連立政権が成立した後も政権が安定して運営される保証はない。右派ヤミーナ党内部では左派やアラブ系政党との連立に反対するメンバーがおり、入植地問題やアラブ人社会の開発対策をめぐり、連立内で対立する可能性は十分に考えられる。
【参考情報】
*関連情報として、下記レポートもご参照ください。
<中東かわら版>
・「イスラエル:2年間で4回目の総選挙の結果」No.147(2021年3月26日)
・「イスラエル:第23期クネセトの解散、再び総選挙へ」No.120(2020年12月24日)
(上席研究員 金谷 美紗)
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