中東かわら版

№26 シリア:アサド大統領の再選

 2021年5月26日、シリアで大統領選挙が行われ、現職のバッシャール・アサド大統領が95.1%の得票率で再選された。全県で投票が実施されたが、反体制派が支配する地域では行われなかった。最高憲法裁判所は51名の立候補者の資格審査を行った結果、アサド大統領、アブドッラー・サッルーム・アブドッラー、マフムード・アフマド・マルイーの3名のみ立候補資格があると判断し、3名を正式な候補者として発表していた。2012年に制定された現行憲法には、立候補者の資格として、40歳以上、シリア国籍の両親から生まれた者、立候補時点でシリアに継続して10年以上居住する者、シリア国籍以外の国籍を保有しない者、犯罪歴のない者、人民議会議員35名以上の支持署名を提出する、などの条件が規定されている。

 大統領の任期は7年である。2012年憲法は再選を1回までと規定しているため、現行憲法下で2014年に当選したアサド大統領の任期は2028年で切れる。今次大統領選挙の結果概要は以下の通り。

■大統領選挙結果の概要(5月27日、サッバーグ人民議会議長発表

・有権者  18,107,109人(国内、在外シリア人有権者の合計)

・投票総数 14,239,140(投票率78.64%)

・無効票    14,000(0.1%)

候補者名

獲得票数

経歴

バッシャール・アサド

13,540,860

(95.1%)

1965年生。大統領(2000年~)。アラブ社会主義復興党シリア地域指導部書記長。

マフムード・アフマド・マルイー

470,276

(3.3%)

1957年生。シリア民主主義戦線事務局長、民主国民労働機関事務局長、元ジュネーブ国際会議反体制派代表団メンバー。

アブドッラー・サッルーム・アブドッラー

213,968

(1.5%)

1956年生。統一社会主義者党(進歩国民戦線所属*)。2016-20年人民議会担当国務相、2003-07年/2012-16年人民議会議員。

*進歩国民戦線は、シリアのアラブ社会主義復興党(バアス党)の指導の下、国内の民族主義的、社会主義的諸政党が連合する組織。

 

評価

 有力な対抗馬はいなかったため、アサド大統領の再選は予想通りの結果であった。立候補の条件にある「人民議会議員35名以上の支持署名」の項目は、議会の過半数以上をバアス党が占めることを踏まえると、アサド政権の存続に反対する人物の立候補を防ぐ条件といえる。

 投票の前日、ブリンケン米国務長官、ル・ドリアン仏外相、マース独外相、ディマイオ伊外相、ラーブ英外相は共同声明を発表し、国連安保理決議2254の枠組みを無視して行われる大統領選挙は自由で公平な選挙にはならないだろうと非難した。2015年に採択された同決議は、暫定統治期間の設置、新憲法の制定、国連の監視下での選挙の実施を求めている。また、上記5カ国の外相は、今次選挙過程の非正統性を主張する全てのシリアの人々、市民社会組織、反体制派を支持すると述べた。このように、国連や西側諸国は今次大統領選挙の結果を受け入れないという立場にいる。

 しかし、軍事情勢では、政府支配地域がトルコ国境付近の北西部・北東部を除き全土に及んだことで、政府軍優勢の状況が2018年頃から続く。地域諸国との関係では、多くのアラブ諸国がアサド政権をシリアの正統な統治者として公式・非公式に認めている。しかし、国連の仲介による新憲法草案協議には進展がなく、シリア紛争の政治的解決は全く進んでいない。アサド政権の統治が実質的に安定化へと進む一方で、国連や西側諸国は統治の正統性を認めないという平行線の状況が続いている。

 アサド大統領の今後の課題は、何よりも物価高騰で疲弊した国民の生活を改善することであろう。シリア・ポンドの下落により食料や燃料の価格が高騰し、各地で人々の不満が噴出している。また、北西部・北東部を支配するトルコ軍、イスラーム過激派、クルド勢力との軍事的・政治的な膠着状態が変化する見通しは不透明である。クルド勢力を支援する米国(バイデン政権)にとってシリア問題の解決の優先度が高くないことも、シリア紛争の現状維持の要因となるだろう。現行憲法の規定ではアサド大統領は2028年で任期切れを迎えるが、今後の7年間に、現体制維持のために何らかの法改正や憲法改正が行われる可能性もあるだろう。

(上席研究員 金谷 美紗)

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