中東かわら版

№25 イラン:第13期大統領選挙の最終候補者7名が発表

 2021年5月25日、第13期大統領選挙(6月18日実施予定)の最終候補者7名が発表された。5月15日の立候補者登録受付終了後、護憲評議会による資格審査を経て、内務省選挙本部が予定を早めて公表したものである。今後、最終候補者7名は6月16日までの間、テレビ討論や遊説などを通じた選挙キャンペーンを短期集中的に展開する。ロウハーニー大統領は任期満了となることから、新たな大統領が選出されることになる。以下は、今般発表された最終候補者7名である。

 

表 第13期イラン大統領選挙(2021年)最終候補者リスト

氏名

現職

備考

サイード・ジャリーリー

公益判別会議メンバー

マシュハド出身、55歳;元国家最高安全保障評議会書記;元核交渉責任者;革命防衛隊出身;2013年大統領選挙得票第3位;保守強硬派

イブラーヒーム・ライーシー

司法府長官

マシュハド出身、60歳;元検事総長;元イマーム・レザー廟寄進財団管財人;2017年大統領選挙得票第2位;保守強硬派

モフセン・レザーイー

公益判別会議書記

フーゼスターン州出身、66歳;革命防衛隊出身;2013年大統領選挙得票第4位;保守強硬派

アリーレザー・ザーカーニー

国会議員(ゴム州ゴム選挙区選出)

テヘラン出身、56歳;第7~9期国会議員(2004-2012年);保守強硬派

アミールホセイン・ガージーザーデ・ハーシェミー

国会副議長(ラザヴィー・ホラーサーン州マシュハド選挙区選出)

ラザヴィー・ホラーサーン州出身、50歳;第8~10期国会議員(2008年-);保守強硬派

モフセン・メフルアリーザーデ

キーシュ自由貿易特区理事;ズールハーネ国際連盟総裁;アジア水資源開発工学機構理事

東アゼルバイジャン州出身、64歳;元エスファハーン大学学長;元副大統領;元体育庁長官;元ホラーサーン州知事;改革派

アブドゥルナーセル・ヘンマティ

中央銀行総裁

ハマダーン州出身、64歳;元イラン・イスラーム共和国放送政治担当副総裁;元中央保険庁総裁;穏健派

(出所)公開情報を元に筆者作成。順不同。

評価

 イランの大統領選挙では、憲法第110条第9項に基づき護憲評議会による候補者の資格審査、すなわち事前スクリーニングが行われる。この点が、イランでは有権者が自由意思で投票できるとはいえ、同国の政治制度が権威主義的だといわれる所以である。憲法第115条によれば、大統領候補の資格要件として、イラン国籍を有すること、管理能力を持ち有能なこと、善き経歴を持ち敬虔であること、イラン・イスラーム共和国の原則や国教を信じていることなどが挙げられる。しかし、護憲評議会による審査過程は不透明だといわざるを得ない。こうした選挙においては、誰が最終候補者に残ったかを見るよりも、護憲評議会が誰を資格審査で失格にしたかに注目することが重要である。今次選挙では、資格審査期間を経て、立候補者592名の内585名が失格ないし不出馬となった。

 最も注目すべきポイントは、有力視された改革派・穏健派候補が軒並み失格とされたことである。5月16日(立候補者登録受付終了翌日)の現地新聞報道ぶりを見ると、各紙は、ライーシー司法府長官と並び、ラーリージャーニー元国会議長とジャハーンギーリー第一副大統領を有力候補に挙げていた。しかし、ラーリージャーニーとジャハーンギーリーは審査を通過できなかった。また、タージザーデ元内相代行、ラフサンジャーニー・テヘラン市議会議長、及び、ペゼシェキヤーン議員ら名のある改革派候補も失格とされた。これらから見て、護憲評議会に影響力を有する体制指導部は、改革派・穏健派支持の有権者の選択肢を狭めたといえる。

 次に、護憲評議会は、サイード・モハンマド元ハータモル・アンビヤー(革命防衛隊傘下の企業)司令官、アフマディーネジャード元大統領、ザルガーミー元イラン・イスラーム共和国放送総裁ら、保守強硬派の注目候補を退けたことにも留意を要する。数名残したとはいえ、保守強硬派候補を一本化しようとする意図が透ける。同時に、保守強硬派のデフガーン元国防相らは、ライーシー司法府長官支持を表明しつつ、事前に出馬を取り止める動きも見せた。出馬を取り止めた候補者が、本命候補当選後の論功行賞獲得を見越している可能性はある。

 最終候補者7名の顔ぶれを見てみると、大まかに保守強硬派5名、改革派1名、穏健派1名となっている。一応は、保守強硬派と改革派・穏健派の候補者が残されてはいるものの、改革派候補には政治的には旬を過ぎたメフルアリーザーデ元副大統領が無理やり引っ張り出されてきた印象が拭えず、全体としてバランスを欠いている。経済情勢が悪化する中、有権者がヘンマティ中央銀行総裁を選ぶことも想定しづらい。だとすれば、今次選挙結果は各派間で拮抗したものとはならず、有権者の票が保守強硬派候補のいずれかに集まることが予想される。特に最終候補者の中で唯一のイスラーム法学者であり、ハーメネイー最高指導者の信頼が厚く、また前回大統領選挙で善戦したライーシー司法府長官が有利であることは確実だと思われる。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「イラン:第13期大統領選挙の立候補者登録受付が終了」2021年度No.22(2021年5月18日)

(研究員 青木 健太)

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