中東かわら版

№24 イラン:IAEA査察受け入れを1カ月間延長し、ウィーンでの交渉スペースを確保

 2021年5月24日、イランは国際原子力機関(IAEA)に対し、核関連活動査察のための監視カメラ映像の保管期間を1カ月間延長すると通知した。同日、国家最高安全保障評議会は声明で、「ウィーンで進行中の協議を勘案して、監視カメラ映像の保管をイラン暦1400年ホルダード月3日(西暦2021年5月24日)から1カ月延長する」と発表した。今次決定は、今年2月21日、イラン・IAEAが当面3カ月間は核関連活動の査察を続ける「技術的了解」に合意したものの、5月23日頃には監視カメラの映像を破棄するとイランが警告していたことを受けてのものである(経緯は「中東かわら版」No.137参照)。

 24日、ガリーブアーバーディ駐ウィーン国連代表部大使は、今次決定についてIAEAのグロッシ事務局長に通知したことを認めるとともに、制裁解除に向けた絶好の機会を交渉当事国が逃さないことを期待するとツイートした。また、グロッシ事務局長も記者会見で、6月24日までこれまで通り核関連施設への査察を続けることにサーレヒー原子力庁長官と合意したことを認めた

評価

 イランがIAEAによる核関連施設への査察受け入れを拒否し、監視カメラの映像を破棄すれば、核関連活動の進捗状況を把握することは著しく困難になる。今回、イランが強硬姿勢を緩めたことは、現在ウィーンで進行中のイラン・米間接協議の行方に悪影響を及ぼさない配慮に基づくことは明らかである。19日、JCPOA合同委員会にイラン側代表として出席したアラーグチー外務事務次官は「良い進展があった」と認めており、交渉当事国の政策決定者の判断次第という段階まで来たとの認識を示していた。この意味では、今次延長措置は、IAEAとイランの双方にとって互いに得るものがある交渉結果だったといえる。

 他方で、今後1カ月以内にウィーンでの交渉がまとまるか否かは全く予断を許さない。米国のトランプ前政権が科した制裁には、銀行・原油取引の制限に加えて、域内の不安定化活動に関与しているとされる革命防衛隊幹部などの個人に対するものも多数存在する(一部報道では1500件以上ともいわれる)。更に、直近ではイスラエル・パレスチナ武装勢力間の衝突が勃発し、イランがハマースやイスラーム聖戦に背後から資源供与していた嫌疑が強まる中、米国として弱腰の対応を見せることはできない。また、前日23日にはガーリーバーフ国会議長(保守強硬派)は「3カ月前に結ばれた技術的了解に基づき、IAEAは核関連施設の映像を入手することはできない・・・国会は戦略的措置法案を履行してゆく」と発言しており、イラン国内派閥間での意見対立も看取される。5月25日、ウィーンでJCPOA合同員会が開かれることとなっており、イラン大統領選挙の実施が6月18日に予定される中、交渉は正念場を迎えている。

(研究員 青木 健太)

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