中東かわら版

№22 イラン:第13期大統領選挙の立候補者登録受付が終了

 2021年5月15日、第13期大統領選挙に向けた立候補者登録受付が終了した。5月11日から始まった5日間の立候補者登録期間を通じて、総勢592名(男性552名、女性40名)が登録した。今回の受付終了を以て、全ての立候補者が出揃ったことになる。今後、護憲評議会(法曹家6名、イスラーム法学者6名から構成される)による資格審査を経て、人数が絞り込まれることになる。その後、選挙キャンペーン期間を経て、6月18日に投票日を迎える予定となっている。主な選挙日程、及び、立候補者は以下の通りである。

 

主な選挙日程

  • 5月11日~16日:立候補者登録
  • 5月26日~27日:最終候補者の発表
  • 5月28日~6月16日:選挙キャンペーン期間
  • 6月18日:投票日(過半数得票者がいない場合、上位2候補による決選投票)

 

表 イラン第13期大統領選挙における主要な立候補者一覧

登録日

氏名

備考

5

11

モハンマド・ハサン・ナーミー

元情報相;元国軍幹部

 

11

サイード・モハンマド

ハータモル・アンビヤー建設基地(革命防衛隊傘下の企業)元司令官

 

11

ホセイン・デフガーン

元国防相;革命防衛隊出身;保守強硬派

 

12

マフムード・アフマディーネジャード

元大統領(2005-2013年);元テヘラン市長;革命防衛隊出身;保守強硬派

 

12

アミールホセイン・ガージーザーデ・ハーシェミー

国会副議長;保守強硬派

 

12

ロスタム・ガーセミー

元石油相:革命防衛隊出身;保守強硬派

 

13

アリー・モタッハリー

元国会副議長;モルテザー・モタッハリー師の息子;伝統保守派

 

14

モスタファ・タージザーデ

元内相代行;改革派

 

15

モフセン・ハーシェミー・ラフサンジャーニー

テヘラン市議会議長;ラフサンジャーニー元大統領(1989-1997年)の息子;改革派

 

15

アリー・ラーリージャーニー

最高指導者顧問;イラン・中国包括的協力協定交渉責任者;元国会議長

 

15

マスウード・ペゼシェキヤーン

国会議員;元保健相;改革派

 

15

エザトッラー・ザルガーミー

元イラン・イスラーム共和国放送代表;革命防衛隊出身;保守強硬派

 

15

イブラヒーム・ライーシー

司法府長官;元検事総長;元イマーム・レザー廟寄進財団管財人;2017年大統領選挙得票第2位;保守強硬派

 

15

イスハーク・ジャハーンギーリー

第一副大統領;保守穏健派

 

15

ムハンマド・シャリーアトマダーリー

協同組合・労働・社会福祉相

 

15

アブドゥルナーセル・ヘンマティ

中央銀行総裁

 

15

モフセン・レザーイー

公益判別会議書記;革命防衛隊出身;2013年大統領選挙得票第4位;保守強硬派

 

15

サイード・ジャリーリー

公益判別会議メンバー;元国家最高安全保障評議会書記;革命防衛隊出身;2013年大統領選挙得票第3位;保守強硬派

(出所)公開情報を元に筆者作成。登録順(時系列)に表記した。なお、上表は、現地報道ぶりを参照の上で主要な候補者を列記したもので、網羅的なものでない点には留意が必要である。

評価

 イランの大統領(任期4年、再選可)を選出するに当たっては、体制指導部(ハーメネイー最高指導者および治安機関・宗教界に代表される中央権力)の意向が資格審査を通して強く働く一方、有権者が直接選挙を通じて意思を表明することができる。この点で、イランの大統領選挙は権威主義と民主的な性質を併せ持ったものであるといえる。今次選挙でも、従来通り護憲評議会により概ね10名以内に最終候補者が絞られることが予想され、また短期決戦で勝敗が決まることになる。このように現時点でなお状況は流動的であるため、今後の資格審査の結果と、コロナ禍での選挙キャンペーンの趨勢を慎重に見極める必要がある。

 体制指導部にとっては、イラン革命から42年以上もの年月が経過し革命の大義が薄れつつある現状下、最優先課題は経済制裁で疲弊した経済の建て直し、及び、ガソリン抗議デモ(2019年11月)やウクライナ機誤射(2020年1月)で噴出した国民の不満の解消であると思われる。こうした中で、今次選挙における注目点の一つは投票率となるだろう。事前の世論調査によれば、「必ず投票する」と答えた有権者の割合は27%しかいなかった。八方塞がりの現状に諦めムードが漂う中、特に中産階級の有権者が不満表明の手段として投票しない可能性はある。低投票率の場合、浮動票が減り、高い動員力を持つ保守強硬派に有利になると考えられる。保守強硬派としては、候補者を一本化し、今後の趨勢を盤石なものに出来るかが課題となる。

 なお、立候補するとの噂があったザリーフ外相とガーリーバーフ国会議長は出馬しなかった。この背景は必ずしも明らかではないが、ザリーフ外相に関しては、先般の革命防衛隊を批判する音声流出事件が影響した可能性が指摘できる。ガーリーバーフ議長に関しては、ライーシー司法府長官の出馬を踏まえて、保守強硬派の票が割れることを懸念したため出馬を取り止めたと報じられている。今後の選挙戦は、保守系各紙が推挙するライーシー司法府長官(上表の下から6番目。2017年大統領選挙で得票第2位(38.3%))を中心に展開されるだろう。

(研究員 青木 健太)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP