中東かわら版

№21 イスラエル・パレスチナ:軍事対立の激化、イスラエル・アラブ人の暴動(2)

 5月10日から始まったイスラエル軍とガザ地区のハマースなどの武装組織との軍事対立は、14日朝(現地時間)までにイスラエル人の死者7名、負傷者523名、パレスチナ人の死者115名、負傷者600名以上を出している。イスラエル軍発表によると、10日から13日夜までにガザ地区から発射されたロケット弾は約1750発で、ハマースやパレスチナ・イスラーム・ジハード運動(PIJ)などがイスラエル領への攻撃を認めた。なお、13日夜にイスラエル軍は地上部隊がガザ地区に入り、軍事作戦を開始したと発表したが、その後、ガザ地区には入っておらず、空軍・地上部隊がガザ地区内の標的を攻撃していると訂正した。同夜には、レバノン南部からもロケット3発が発射されたが、イスラエル北部の海洋上に落ちた。また、イスラエル国内で11日から始まったユダヤ人とアラブ人の暴動は多数の都市に拡大している。以下に、12~14日朝までの主な情勢をまとめた。

■ガザ地区

  • ハマース発表:カッサーム旅団がエルサレム、アシュケロン、アシュドッド、スデロット、ベエルシェバ、ネティボト、キルヤト・ガトなどに対してロケット弾を発射した。13日、エイラート近くのラモン空港をアイヤーシュ250ロケットで攻撃した。
  • PIJ発表:12日朝、クッズ旅団がネティボト、スデロット、アシュケロン、アシュドッド、テルアビブなどに対してロケット弾を発射した。
  • ガザ保健省発表:14日朝までに115名が死亡、621名が負傷した。
  • ケレム・シャローム境界の閉鎖による燃料供給不足や、ガザ地区から発射されたロケット弾がガザの電力系統に被害を及ぼしたことで、深刻な電力不足と水不足に陥っている。

イスラエル(「防御の壁作戦」)

  • ガザ地区に対する攻撃:13日夜までにガザ地区の「テロリスト」標的600カ所以上を攻撃し、100人以上の「テロリスト」を殺害した。攻撃した標的は、ハマースやPIJの武器工場、無人機部門の建物、カッサーム旅団幹部の建物、対戦車ミサイル・ランチャー、対ミサイル・ランチャー部隊、軍事司令官の住宅、ハマースの銀行が含まれる。
  • イスラエル側被害:10日から13日夜までに約1750発のロケット弾がイスラエル領に対して発射され、うち300発がガザ地区内に着弾した。アイアン・ドームが数百発を迎撃した。
  • 13日、予備役兵9000人が追加招集された。
  • ベングリオン空港を閉鎖。

イスラエル国内でのユダヤ人とアラブ人の衝突

  • ユダヤ人・アラブ人の暴力的衝突がテルアビブ、ロード、ラムラ、ヤッファ、ハイファ、ウンム・ファハム、ベエルシェバなどでに拡大した。バト・ヤムでは極右ユダヤ人集団がアラブ人を集団リンチする事件が発生し、ロードとラムラではアラブ人がユダヤ人に発砲し、3人が死亡した。極右ユダヤ人はSNS上でナイフやガソリンを使用してアラブ人を攻撃するよう呼びかけている。
  • 暴動鎮圧のため、ガンツ国防相は国境警備隊の予備役兵を招集した。13日、ロード市が非常事態宣言は48時間延長された。

諸外国の反応

  • 国連:10日に引き続き12日も国連安保理緊急会合が開催されたが、イスラエル・パレスチナに暴力の停止を求め、イスラエルに入植地活動・住宅破壊・立ち退き命令の停止を求める決議案の採択は見送られた。
  • 米国のバイデン大統領はイスラエル・パレスチナ双方に暴力の停止を求めつつ、イスラエルの報復攻撃は重大な過剰反応ではないと述べた。
  • エジプト代表団がガザ地区でハマースと、テルアビブでイスラエル政府と停戦仲介の協議を行った。

 

評価

 ハマースやPIJが発射した多数のロケット弾は、ガザ地区周辺だけでなくテルアビブ周辺にも着弾し、市街地や住宅地で人的・物的被害をもたらしている。イスラエルはこれを民間人を狙った無差別攻撃とみなしており、ガザの武装勢力が攻撃を停止しない限り報復攻撃を緩めないだろう。13日夜にイスラエル軍の地上部隊がガザ地区に入ったという誤情報が流れたが、地上部隊が入ればイスラエル軍側の死傷者は増えるため、この軍事オプションは慎重に検討されると思われる。諸外国による停戦の呼びかけが高まっているが、国連安保理では米国の意向で停戦決議案が再び見送られたように、バイデン政権下の米国もイスラエルへの配慮が見られる。

 他方、イスラエル国内に目を向けると、今回のイスラエル・ガザ軍事対立がユダヤ人とアラブ人の暴動に発展した点は過去の軍事対立ではそれほど見られなかった特徴である。しかし、今回のユダヤ人とアラブ人の衝突は、イスラエル・パレスチナ和平交渉が約30年にわたり停滞した結果と言えるだろう。イスラエルによる占領統治が固定化した状況において、占領地で生活するパレスチナ人の人権が日常的に侵害され続けた結果、パレスチナ社会では対イスラエル強硬派のハマースが支持を広げ、イスラエル社会ではパレスチナ人を「テロリスト」とみなし、彼らの追放さえ主張する右派が台頭した。イスラエルの政治家はユダヤ人・アラブ人暴動は社会を分裂しかねないとして暴力停止を呼びかけているが、今回の暴動はイスラエル国家のユダヤ性を追求し、アラブ人を「二級市民」として扱った長年の政治の帰結と言える。

(上席研究員 金谷 美紗)

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