№18 アフガニスタン:カーブル西部の女子学校での爆発事件
2021年5月8日、カーブル西部ダシュテ・バロチー地区にある女子学校近くで爆発事件が発生し、多数の女子学生が犠牲となった。同事件はサイイド・ショハダー女子学校から学生が下校中に発生したもので、8日の内務省発表によれば自動車積載型爆弾の爆発後、簡易爆発装置2発も炸裂し、68名以上が死亡、150名以上が負傷した。ガニー大統領は5月11日を服喪のため休日にすることを発表するとともに、第一副大統領に対して遺族への支援を行うよう指示し、第二副大統領に対しダシュテ・バロチー地区の治安確保の計画策定と原因報告を求めた。
今次事件を受けて、ターリバーンのムジャーヒド報道官は「我々は、本日カーブルのダシュテ・バロチー地区で発生した、民間人を標的とし、多くの犠牲者を出した爆発を非難する」として、関与を否定した。また、同報道官は、「この行為は、カーブル行政機構(注:アフガニスタン政府を指す)の情報機関からの支援・訓練の下、ダーイシュの名で活動する邪悪な勢力によるものである」として「イスラーム国」の犯行だと主張した。一方で、現時点では、「イスラーム国」から犯行声明は出されていない。事件が発生したダシュテ・バロチー地区は少数民族ハザーラ人が多数居住する地域で、これまでも間欠的に同様の惨事が発生してきた(下表参照)。
表 過去にダシュテ・バロチー地区で発生した治安事案一覧
日付 |
内容 |
実行主体 |
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2017 |
6 |
15 |
ザフラー・モスクに対する襲撃事件が発生し、ハージー・ラマザーン(ハザーラ人指導者)を含む6名が死亡、10名が負傷した。 |
「イスラーム国」が実行を主張。 |
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10 |
20 |
イマーム・ザマーン・モスクの金曜礼拝に対する襲撃事件が発生し、民間人39名以上が死亡した。 |
「イスラーム国」が実行を主張。 |
2018 |
4 |
22 |
選挙人登録センターに並ぶ列に対する自爆攻撃が発生し、民間人69名以上が死亡、120名以上が負傷した。 |
「イスラーム国」が実行を主張。 |
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8 |
15 |
教育施設に対する自爆攻撃があり、大学入試のために勉強していた学生34名以上が死亡した。 |
「イスラーム国」が実行を主張。 |
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9 |
5 |
スポーツクラブを狙った2件の爆発が発生し、20名以上が死亡、70名以上が負傷した。 |
「イスラーム国」が実行を主張。 |
2020 |
5 |
12 |
国際NGO「国境なき医師団」が産婦人科病棟を運営する病院に対する襲撃事件が発生し、民間人16名(多くは妊婦。新生児2名含む)が死亡、16名が負傷した。 |
不明 |
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10 |
24 |
教育施設に対する自爆攻撃があり、30名以上が死亡、70名以上が負傷した。 |
「イスラーム国」が実行を主張。 |
2021 |
5 |
8 |
女子学校近くで、自動車積載型爆弾を含む複数の爆発が発生し、女子学生68名が死亡、150名以上が負傷した。 |
不明 |
(出所)公開情報をもとに筆者作成。
評価
アフガニスタンでは、国民の多くはスンナ派を信仰しているが、シーア派を信仰する者も少なからずおり、そのほとんどはハザーラ人である。ハザーラ人が多く住むダシュテ・バロチー地区は、過去累次に渡って攻撃の標的にされ多数の民間人死傷者を出してきており、これら事件の大部分に対して「イスラーム国ホラーサーン州」が実行を主張していた(注:但し、2020年5月、2021年5月を除く)。今次事件に関し、ターリバーンは即座に実行を否定しつつ、「イスラーム国」の関与を糾弾している。近年、ターリバーンはアフガニスタン諸勢力を包摂するイスラーム統治体制の樹立を標榜し、現場でのハザーラ人司令官の登用を始めている他、表向き教育・福祉サービスの提供を通じた民心把握に腐心する姿勢を示していることから、今次事案を積極的に引き起こすことで得られる利益は少ない。
注目されるのは、アフガニスタンからの米軍撤退が始まり、アフガニスタン政府とターリバーンの和平交渉の進展が期待される時期に今次事件が発生したことである。今次事件は、米軍撤退後、アフガニスタンで再び国際テロ組織が跳梁跋扈するとの懸念を増幅させるものとなった。また、ガニー大統領は、民間人に対する殺傷行為をやめるようターリバーンを名指しで非難しており、結果としては、交渉当事者間での相互不信が醸成されたことになる。現時点で実行主体は明らかでないものの、もし何者かが和平プロセスを脱線させるために実行したのだとすれば、その何者かの奸計は上手くいったといわざるを得ない。
(研究員 青木 健太)
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