№17 パレスチナ:東エルサレムでの大規模な衝突
2021年5月7日から9日にかけて、東エルサレムのアクサー・モスク周辺でパレスチナ人とイスラエル警察が衝突し、少なくとも560人が負傷した。衝突の背景には、4月中旬からエルサレムでパレスチナ人とイスラエル人の暴力的対立が再燃していることや、シャイフ・ジャッラーフ地区のパレスチナ人家族に立ち退き命令が下されたことがある。
4月中旬から下旬にかけて、イスラエル当局がパレスチナ人のダマスカス門へのアクセスを制限したり、極右の武装したイスラエル人が東エルサレムで「アラブ人に死を」と叫んで行進する出来事が起きた。これにより、パレスチナ人、極右のイスラエル人、イスラエル警察の暴力的な衝突が続いている。5月2日には、イスラエル最高裁が、シャイフ・ジャッラーフ地区に居住するパレスチナ人の4世帯に対して5月6日までの立ち退きを、3世帯に対し8月1日までの立ち退きを命令した。これは、原告のユダヤ人家族が1948年独立戦争(第一次中東戦争)で失った土地の所有権の返還を求めた裁判での判決である。立ち退き命令を受けたパレスチナ人家族は、1956年に当時の東エルサレムおよび西岸を統治していたヨルダン当局より住宅購入許可を得た証拠を裁判所に提出し、原告ユダヤ人の主張に反論している。10日に最高裁でこの裁判の審問が行われる予定であったが、10日がイスラエルのエルサレム統一(正確には占領)を祝う「エルサレムの日」に当たり、暴力的衝突の発生が懸念されることから、最高裁は審問を延期した。
エルサレムでの衝突を受けて、イスラエル・アラブが多数居住するイスラエル北部では、アラブ人がパレスチナ人への連帯を示す抗議デモを行い、警察との衝突で負傷者が出た。ガザ地区からは複数のロケット弾や爆弾風船がイスラエル南部に発射され、イスラエル軍はガザ地区の漁業区域を封鎖する報復措置を実施した。
評価
一連の衝突による負傷者数は最近では最大規模といえる。ラマダーン月の集団礼拝や「エルサレムの日」というパレスチナ・イスラエル双方のナショナリズムを高揚させる出来事が重なり、イスラエル最高裁のパレスチナ人家族立ち退き命令が直接的な引き金となり、パレスチナ人数万人が抗議デモに参加したり、数百人もの負傷者が出る事態に発展したといえる。
このような大規模な衝突が起きたことにより、パレスチナ側はPA(ファタハ)もガザを実行支配するハマースも、イスラエルとの和平交渉を拒否する姿勢を強くするだろう。5月15日にはパレスチナ人は「ナクバの日」(破滅の意;イスラエル建国により大量のパレスチナ人が難民と化した日)を迎えるため、新たな衝突が発生する恐れがある。
(上席研究員 金谷 美紗)
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