中東かわら版

№13 サウジアラビア:ムハンマド皇太子によるビジョン2030の中間報告他

 2021年4月26日、国家改革計画サウジ・ビジョン2030が開始から5年経ったことをうけて、ムハンマド皇太子が国営アラビーヤ放送(ドバイ拠点)にインタビュー出演した。関連して報じられたビジョン2030の成果を含め、主な内容は以下の通り。

 

1. ビジョン2030の主な成果(2015年→2020年)

●公共投資基金の資産が5700億リヤル以下から約1.5兆リヤルに増大

●国外への投資が58%低下の一方、海外からの投資が331%(53.21億リヤルから176.25億リヤル)に上昇(NEOM、Qiddiya、Red Sea Projectなどの大型プロジェクトによるもの)

●国民の住宅所有率が47%から60%に上昇

●交通事故による年間死亡率(10万人当たり)が28.8%から13.5%に減少

●4時間以内の緊急医療体制へのアクセス率が36%から87%に上昇

●スポーツへの参加率が13%が19%に上昇

●今後、消費税を導入する計画はない。

●2020年7月の15%の付加価値税(VAT)は時限的な措置である。

●今後、サウジアラムコの株式の1%を海外の大手エネルギー会社等に売却予定である。

 

2. 対米関係

●サウジ外交が最優先するのはサウジにとっての利益である。

●現在のバイデン米政権とは90%合意している。そもそも100%の合意はあり得ず、残り10%は双方が妥協点を見出すべく取り組むことだ。

 

3.対イラン関係

●イランとは良好な関係を築くことを望んでいる。

●イランとの関係構築の障害はイランによる核・弾道ミサイル開発、地域のプロキシーへの支援である。これらの脅威に対してサウジは協力国とともに解決に取り組んでいる。

 

4. イエメン戦争他

●サウジは武装民兵が国境に存在する事態を容認できない。

●サウジはフーシー派(正式名称アンサールッラー)がサウジの停戦案に則り和平交渉のテーブルにつくことを期待する。

●フーシー派がイラン体制と緊密なのは事実である。しかし彼らはアラブ人なので、最終的には同胞であるサウジと戦争終結に向けて努力すべきだ。

●サウジは常に過激主義の主たる標的になる。過激主義は観光産業の促進や雇用創出につながらず、経済の発展を妨げる。

 

評価

 ビジョンの過去5年間の成果として強調されたのは、主として国庫増大と国民の生活の質向上である。当然ながら、前者は基本的な国力増強の観点から重要性を持つ。特に昨年の原油価格の下落やCOVID-19感染拡大による世界規模の原油需要の低下が指摘される中では、サウジの経済的安定性をアピールする材料となりえよう。

 一方の後者は、これまでの成果とされてきた様々な社会生活の変化(女性の社会進出や娯楽産業の促進等)が、国民一人一人に実利をもたらすのかという疑問や不安への回答と言えるものだ。とりわけ住宅所有率の上昇は朗報であろう。大家族の同居を念頭に置いた「マイホーム神話」の考えはサウジ社会において根強く、持ち家は国民にとって幸福度の指標の一つとなりうる。若年層人口が多く、今後も人口増加が見込まれる状況下、持ち家を所有できるかどうかの関心は国民の間で高く、これをうけて政府は住宅供給に力を注いできた。国民の幸福度を高めることは、政府及びビジョンの主導者であるムハンマド皇太子への支持基盤を固める上では不可欠である。

 外交については現下のイエメン戦争への言及が多く見られた。イエメン戦争に関して、サウジは3月に全土での停戦案を発表している。具体的な内容は示されていないが、米国のイエメン担当特使との頻繁な協議が確認でき、早晩その詳細も示されるだろう。ただし敵対勢力であるアンサールッラーは停戦案に反応を示していない。イエメン国内でアンサールッラーと対立する、サウジが支援するイエメン統一政府は、このことについて「フーシー派が平和を望んでいない証拠だ」と非難する。

 しかしアンサールッラーが停戦案を無視する理由は、戦況が自派に優位である(と判断している)ためと考えられる。したがって同派が停戦案を受け入れるとすれば、戦後プロセスにおいて排除され得ない政治的立場を確立した後であろう(例えて言えば、アフガニスタンにおけるターリバーンのような存在となれば停戦案を受け入れる可能性も高まろう)。これに対応するプランをサウジが用意するかどうかは不明ながら、ムハンマド皇太子の上記の発言はアンサールッラーの排除を必ずしも前提としていない。例えば統一政府との権力分有といった未来をアンサールッラーが想定しているかどうかは疑問だが、イエメン戦争においてサウジ側に妥協が求められている段階と言えそうだ。

(研究員 高尾 賢一郎)

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