中東かわら版

№12 リビア:予算問題により石油輸出が停止

 2021年4月19日、リビア国営石油会社(以下、NOC)は予算問題を理由に東部のハリーガ石油輸出港からの輸出停止を発表した。輸出停止の背景には、中央銀行が昨年9月以降、石油部門に予算を割当てなかったことで、NOCの運営資金が不足したことがある。その結果、NOC子会社のアラビア湾石油会社(AGOCO)は事業継続が困難となり、生産能力を削減せざるを得なくなった。NOCは22日、産油量は3月の128万バーレル/日量(bpd)から約100万bpdまで低下したと発表し、更なる減少の可能性も示唆した。

 予算をめぐるNOC・中央銀行間の対立を受け、国民統一政府(GNU)は仲介に乗り出したほか、早期の輸出再開に向けてNOCに緊急資金10億ディナールを送金する方針を表明した。

評価

 リビアの産油量は近年、情勢の動向に大きく左右されている(下図)。昨年1月にハフタル率いるリビア国民軍(LNA)が対立する国民合意政府(GNA)に圧力をかけるため、東部からの石油輸出を妨害した。また今年1月には石油施設警備隊(PFG)が給与未払いを理由として、ハリーガ石油輸出港を封鎖した。そして、今回は予算をめぐるNOC・中央銀行間の対立が輸出停止をもたらした。

                                  図 産油量の推移(2018年~2021年4月)

 

    (出所)OPEC及びNOCの公表データをもとに筆者作成。

 

 今般NOC・中央銀行間の対立の背景として、石油収入の管理権が挙げられる。現行の決済制度ではNOCの輸出を通じて得た石油収入は、最終的に中央銀行の管理下に置かれる。その一方、NOCはこれまで中央銀行による不透明な資金支出を批判しており、より自律的な資金調達を図るため、管理権に関する制度変更を目論んできた。こうしたNOCの動きを牽制するため、中央銀行は石油部門への支払いを停止した可能性が考えられる。

 今後の懸念は、産油量低迷の長期化が財政状況に悪影響をもたらすことである。2020年の石油収入はLNAの輸出妨害措置の影響を受け、前年比でマイナス92%を記録し、財政赤字も対GDP比でマイナス103%まで拡大した(出所:IMF)。こうした政府の厳しい財政事情により、この先NOCは中央銀行が未払いの2020年分予算を受け取ったとしても、今年分予算も不足することで再び生産活動の停止を余儀なくされるだろう。さらに、各国と取り決めた開発プロジェクトの資金や、国民生活に直結する公的サービスの財源が十分に捻出できなくなる可能性もあるため、新政府GNUが予算問題を早期に解決できるか否かが政権運営の安定性や今後の情勢推移に大きく影響していくと考えられる。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「リビア:石油輸出の再開」№82(2020年9月25日)

<中東トピックス>【会員限定】

・「リビア:石油輸出停止への懸念が再燃」T20-10(2021年1月号) 

(研究員 高橋 雅英)

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