中東かわら版

№11 アフガニスタン:バイデン米政権が9月11日までの米軍撤退延期を決定

 2021年4月14日、米国のバイデン大統領は、アフガニスタン駐留米軍の撤退を2021年9月11日まで延期することを決定した。昨年2月29日に結ばれたドーハ合意では、米軍撤退期限は2021年5月1日とされていた。

 バイデン大統領は演説で、米国は10年前にアル=カーイダ(AQ)指導者のウサーマ・ビン・ラーディンを殺害し、その後の10年間もテロ対策で成功を収めたと述べ、米国に対するテロ攻撃を防ぐとの当初の目的は達成されたと強調した。その上で、「今こそ米国にとって最長の戦争を終わらせる時だ。米軍が(アフガニスタンから)母国に帰還する時が来た」と明言した。そして、同大統領は就任直後から5月1日までの撤退期限について慎重に検討したが、関係者・同盟国との協議の結果、米国同時多発テロから20周年に当たる9月11日まで撤退を延期する決断を下したと語った。同大統領は今後も、アフガニスタン政府とターリバーンとの和平合意に向けて同盟国と連携しながら外交的努力を続けると述べるとともに、限られた資源を有効に用いながらアフリカ、中東、及び、アジアにおけるテロ対策を強化する姿勢も示した。

 同日、バイデン大統領はガニー大統領と電話会談し、米国は同盟関係を基に米軍撤退後もアフガニスタン政府への支援を続けると約束した。これに対して、ガニー大統領は、米国の決定を尊重すると述べ、これを受け入れる意向を示した

 その一方で、ターリバーンは米軍撤退延期に対して激しく反発する姿勢を示している。3月26日、ターリバーンは「アフガニスタン・イスラーム首長国」名で声明を発出し、ドーハ合意こそがアフガニスタン紛争の解決に向けた最短の道であり違反は認められない、もし米国が合意違反をすれば武装抵抗活動を継続すると警告した。また、4月13日、ターリバーン交渉団のナイーム報道官は、全ての外国軍が撤退しない限り、「イスラーム首長国」はアフガニスタンの将来を決める如何なる会合にも参加しない、とアフガニスタン和平に関する国際会合のボイコットを示唆した

 これと関連し、トルコ政府は13日、イスタンブル会合を4月24日~5月4日の10日間行うと発表した。同会合は、本年2月下旬、米国がトルコに対して開催を要請していたもので、今後のアフガニスタン和平の行方を見る上で重要な会合になる見通しである(詳細は、『中東かわら版』No.141参照)。

評価

 2001年9月11日に発生した米国同時多発テロという大惨事を受けて、米国は2001年10月にアフガニスタンへ、2003年3月にはイラクへと侵攻し、「テロとの戦い」を始めた。それ以降、ブッシュ政権(2001-2009)、オバマ政権(2009-2017)、トランプ政権(2017-2021)を経て、バイデン政権(2021-現在)に至る4代の米政権が「テロとの戦い」に苦戦を強いられてきた。今般、こうした「永遠の戦争」を前任者から引き継いだバイデン大統領が、「テロとの戦い」の嚆矢となったアフガニスタンからの米軍撤退を宣言したことで、9.11から20周年にして大きな節目を迎えることになった。

 今次決定において撤退期限を9月11日まで延長した点からは、バイデン大統領が苦渋の決断を迫られた様子が垣間見える。同大統領は、本年1月20日の就任直後からアフガニスタン紛争への対処方針において重大な決断を迫られる中、完全撤退を決行すればアフガニスタンが再び内戦に陥るのではとの懸念が拭えない一方で、延期すればターリバーンからの突き上げは不可避という、難しい状況に立たされていた。今回の4カ月余りの延長という決断からは、9.11から20周年目という象徴的な日に合わせたという意味合いだけでなく、この期間を利用してアフガニスタン政府とターリバーンとの間での恒久的な停戦、及び、真の和平合意を実現させ「責任ある撤退」への道筋をつけたい意向が透けて見える。

 他方で、和平実現に向けた課題は山積みであり、今後の情勢を楽観視することは難しい。バイデン政権は、アフガニスタン政府とターリバーンが権力分有する形での移行政権樹立を提案している。しかし、ターリバーンは、停戦や将来の政治体制については、外国軍が残留する間は交渉に応じないとの立場を崩していない。ガニー大統領が、ターリバーンに対して民主的手続きを通じた移行政権の樹立を提案しているのに対し、ターリバーンは欧米で生まれた政治的仕組みにアフガニスタン人が従う必要はないと断じ、イスラーム統治の実現を強硬に主張し続けている。こうした実情を見ると、早期の交渉の妥結は困難だと言わざるを得ない。膠着状態の打破に向け、米国はターリバーンに対して影響力を有するパキスタン等を通じて圧力をかけつつ、アフガニスタン政府には巨額の軍事・民生支援を梃子に譲歩を迫ると見られる。

 また、治安面でも、現時点でターリバーンによる軍事攻勢が収まる気配はない。硬軟両戦術を採るターリバーンが、将来の交渉で自らを有利にする軍事的手段を手放す可能性は低い。今般、米国がドーハ合意上の義務の一部を反故にしたことで、ターリバーンがこれを不服とし、これまで自制してきた都市部や外国権益への攻撃を再開する危険性は高まった。既にターリバーンは南東部ホースト州(3/30)、及び、南部カンダハール州(4/7)の米軍・政府合同基地に対する攻撃を仕掛けつつ米側の出方を窺っている。現在、ターリバーンによる外国権益への更なる攻撃を警戒すべき局面である。もっとも、ターリバーンにとって、彼らが「占領者」と見做す外国軍の完全撤退は獲得したい利益でもある。このため、今後、同勢力が米兵への人的被害をもたらすなどの、ドーハ合意の枠組みを完全に破綻させるほどの行動は控えると考えられる。

 これらを踏まえた当面の課題は、4月24日から予定されるイスタンブル会合にターリバーンが実際に参加し、そして将来に向けたロードマップを策定出来るかである。撤退までの限られた時間に鑑みると、交渉当事者から何らかの譲歩が引き出される必要がある。当事者間の対立が予想される状況下、双方から信頼される第三者による調停・仲介が重要となる。これまで会合をホストしてきたカタル、トルコ、ロシア、中国や、近隣諸国のパキスタン、イラン、インド、そして国連が果たすべき役割は大きい。同時に、米国撤退後には「力の真空」が生まれることから、これを埋めるべく中国やロシアが大国間競争の文脈で影響力の拡大を図る可能性もある。ターリバーンはAQを始めとする国際テロ組織との関係を断絶していないと見られることから、米軍撤退後にアフガニスタンが再びテロの温床となる懸念も残る。バイデン大統領は「当初の目標は達成された」と強弁したが、そう断言することは難しいのが実状である。

(研究員 青木 健太)

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