中東かわら版

№10 イラン:ウラン濃縮度60%への引き上げを宣言

 2021年4月13日、アラーグチー外務事務次官は、イランはウラン濃縮度を60%に引き上げると宣言した。同次官はウィーンで記者団に対して、同日にこのイランの決定を国際原子力機関に通知したと認めるとともに、現行の遠心分離機よりも濃縮容量が50%多い高性能遠心分離機1000基を新たに据え付けて作業に当たると説明した

 ガリーブアーバーディ駐ウィーン国連代表部大使は、「今次の行動は、ナタンズで発生した妨害行為に対抗して行われるものだ」と発言し、11日に発生したナタンズ核関連施設での電気系統の損傷事案に対する対抗措置であるとの認識を示した。また同大使は、濃縮作業は、ナタンズ核関連施設に設置されるIR-4型、及び、IR-6型遠心分離機から成るカスケード2組を使用して行われると述べた。イラン核合意(JCPOA)規定では、イランは3.67%までの濃縮しか認められておらず、また濃縮作業への使用機材はIR-1型遠心分離機しか認められていない。つまり、今次行動はJCPOA規定への大幅な違反に当たる。但し、製造される60%濃縮ウランは少量になると見込まれる(過去の経緯は、『中東分析レポート』R20-14【会員限定】参照)。 

評価

 今次の動きはイランの核開発に向けた取り組みを一段と押し進めるものの、イランは平行してウィーンでの協議を続ける意向であることから、交渉を有利に運ぶための「揺さぶり」であると見られる。現在のイランのウラン濃縮度は20%であり、そこから60%に引き上げることは技術的に困難なことではない。このため、これまでにイラン側が示してきたJCPOA遵守の条件である「先に米国が全ての制裁を解除すれば、イランはJCPOA履行一部停止を逆行させる」との立場自体に変更はないと考えられる。

 とはいえ、ウランを60%まで濃縮させることは、核兵器に使用できるレベルである90%に近づく点でやはり危険な水準である。天然ウランに含まれるウラン235(核分裂を起こし大きなエネルギーを放出する)の含有量は、一般的に約0.7%とされており、これを原子力発電用に使用するためには3~5%へ、核兵器に使用するのであれば90%へと濃縮することが必要とされる。20%以下は低濃縮ウラン、それを越えるものは高濃縮ウランに分類される。イランは既に高濃縮ウラン(20%)の製造に着手していたが、60%という数値はイランにとっても未着手の領域であることから、今回の動きはイランにとって核技術向上の機会になるだろう。

 米ホワイトハウスのサキ報道官は13日、イランの発表は「挑発的」で「核交渉に対するイランの真剣度を疑わせる」もので、「懸念している」と反応した。イスラエルによるとされるナタンズ核関連施設への「攻撃」に関与していない立場を示す米国は、同盟国イスラエルを懐柔し、また強気の姿勢で交渉に臨むイランと間接的に対峙せねばならない難しい局面にある。

(研究員 青木 健太)

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