中東かわら版

№9 イラン:新型コロナウイルス対策事情(感染拡大の「第4の波」に直面)

 イランでは中東域内で他国に先駆けて新型コロナウイルス(COVID-19)の流行が確認されるなど耳目を集めてきたが、現在、感染拡大の「第4の波」に直面している。昨年12月中旬以降、イラン政府による厳格な対応により「第3の波」は収束傾向にあったが、2021年4月7日に日別感染者数が2万954名を記録し、以降も連日2万名を超える日が続く感染爆発局面に入った(図1、2参照)。4月12日時点で、累計感染者数は209万3452名に達した。これは、域内ではトルコに次ぐ2番目、世界では15番目に位置する。なお、同日時点での累計死者数は6万4764名である。

 本年1月5日には、英国から到着したイラン人乗客から変異株が初確認されており、気を緩めることのできない状況が続いている。こうした中、イラン政府は感染抑制に向けてワクチンの調達・開発に力を注いでいる。2月4日にはロシア製ワクチン「スプートニクV」の第1便が到着し、同9日から医療従事者を対象とするワクチン接種を開始した。また、同28日に中国製薬企業「シノファーム」のワクチンを輸入した他、4月4日にはCOVAX経由で英国製薬企業アストロゼネカのワクチンも輸入している。また、イランは国産ワクチン3種類の開発にも着手しており、近く大規模な接種を始める計画としている。

 

図1 イランにおけるCOVID-19の日別感染者数の推移

 

(出所)保健省発表をもとに筆者作成。

 

図2 イランにおけるCOVID-19の日別死者数の推移

(出所)保健省発表をもとに筆者作成。 

評価

 イランで感染拡大の「第4の波」が到来した要因として、ノウルーズ(イラン暦の元日)に伴う人々の往来の活発化が挙げられる。ノウルーズは同国最大の祝祭日で、10日間前後の休日期間には、多くの人々が帰省し親類縁者と祝う光景が見られる。政府が移動自粛を求めていたとはいえ、密な状態での会食や都市間移動が感染者・死者数を押し上げたものと考えられる。イランでは「第3の波」がシーア派の宗教行事アーシューラーから2週間前後経過して到来した事例もあり、同国固有の宗教・社会事情が感染状況に影響する傾向が顕著に見られる。

 ハーメネイー最高指導者は1月8日にゴム州において米・英国が製造するCOVID-19ワクチンの輸入を禁ずると演説したにもかかわらず、実際のところイラン政府が英国製ワクチンを輸入した点は特筆に値する。この背景は必ずしも明らかでないが、今回、世界各国に公平にワクチンを配分することを目指すCOVAXを経由しており、英国からの直接輸入でないことが黙認につながった可能性はある。他方、ハーメネイー最高指導者が、国内の聴衆向けに過激な発言をしたに過ぎなかった可能性も否定できない。これは些細な事例ではあるが、「ハーメネイー最高指導者の発言が誰に向けられたものであるか」を見極めることの重要性を示唆しているとも解釈できる。

 

【参考情報】

*1月29日発売の『中東研究』最新号(特集「米コロナ禍を経た中東政治経済」、第540号)では、イランにおけるCOVID-19を事例に取り上げた論考「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大とイラン政治経済」(青木健太)が収められています。ぜひご覧ください。

(研究員 青木 健太)

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