中東かわら版

№8 リビア:各国大使館の再開に向けた動き

 リビアでは、新たな統一政府「国民統一政府(GNU)」の信任投票が3月10日に代表議会(HOR)で実施され、賛成多数で可決された。その後、東西で対立する国民合意政府(GNA)、東部政府の双方ともGNUへの権限移譲を円滑に行ったことで、2014年の内戦開始以降初めて政府が統一され、「1国2政府」状態の解消に至った。

 こうした政情の安定化の兆しを受け、各国大使館の再開に向けた動きが加速している。各国の動きは以下の通りである。

 

                         表1 各国大使館・領事館の再開状況

  フランス

  【再開済】

トリポリの大使館が約7年振りに再開(3月29日)。

   イタリア

  【再開方針】

ディマイオ外相は東部ベンガジで領事館を再開し、南部地域で名誉領事館を開設する方針を発表(3月31日)。

      マルタ

  【再開方針】

アベラ首相がトリポリの大使館の早期再開を明言(4月5日)。

     ギリシャ

  【再開方針】

ミツォタキス首相がトリポリの大使館及びベンガジの領事館再開にダバイバ首相と合意(4月6日)。

     アメリカ

 【再開可能性】

ポーター国務省副報道官が、治安状況が改善され次第、トリポリの大使館が再開する可能性に言及(3月24日)。

      ロシア

  【再開協議】

ザハロワ外務報道官がトリポリの大使館再開の可能性についてGNUと協議していると発表(3月19日)。

       中国

  【再開協議】

大使館再開に向けて中国大使館関係者が3月30日にラーフィー執行評議会副議長、4月1日にマングーシュ外相と協議。

(出所)各種報道をもとに筆者作成。

 

評価

 各国が大使館再開に向けて動き始めた背景には、リビアに外交拠点を戻すことでGNUとの関係強化を図る狙いがあると言える。2014年夏の内戦発生以降、日本を含む多くの国は大使館を閉鎖しており、現在はトルコやイタリアなど一部の国のみがトリポリで大使館業務を行っている。今般、新政府が誕生し、停戦も継続していることから、各国は安定的な情勢推移を予想し、今後見込まれるインフラ復興事業への参画を目的にGNUとの関係構築に努めているのだろう。また、再開協議中のロシア及び中国は、カッザーフィー政権期に契約締結に至り現在停止中の建設事業を早期に完工させ、資金を回収する思惑も持っている。

 今後の注目点は、ギリシャ・GNU間の接近が対トルコ関係に影響を及ぼすかである。GNU発足以前、トリポリ拠点の前政府GNAはトルコと親密な関係を維持し、2019年11月には軍事・海洋境界合意に署名した。トルコは同合意を根拠にリビアへの軍事介入を本格化させ、同国部隊を駐留させることで現在もリビア西部を影響下に置いていると言える。こうした状況下、ギリシャはGNA・トルコ間合意を問題視していることから、この先、GNUに対して同合意の修正又は破棄を迫る可能性も考えられる。その場合にトルコが猛反発しギリシャとの対決姿勢を強めることで、リビア紛争関係国間の対立激化がGNUの政権運営に行き詰まりをもたらす恐れもあるだろう。

 

【参考情報】

<中東かわら版>

・「トルコ・リビア:軍事・海洋境界合意による東地中海諸国の対立」№164(2019年12月27日)

・「リビア:新統一政府の選定」No.134(2021年2月8日)

 

<中東トピックス>【会員限定】

・「リビア:新たな統一政府が議会で承認」T20-12(2021年3月号)

(研究員 高橋 雅英)

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