中東かわら版

№7 GCC:コロナ禍2年目のラマダーン

 現在、GCC諸国のCOVID-19感染状況は拡大段階にある。サウジアラビアは3月後半より1日あたり新規感染者数が約半年ぶりに500人を超え、早晩4桁となることが予想される。同様にクウェイトも新規感染者が3月以降4桁で高止まりし、オマーン、バハレーンとともに最多となる新規感染者数を更新している。カタルも新規感染者数が昨年6月以来の4桁に達する勢いだ。GCCの中で唯一、UAEは感染中患者数が減少傾向にあるが、それでも劇的な状況改善に至っているわけではない。

 こうした中、2021年4月12日の日没にヒジュラ暦1442年のラマダーン月が開始予定である。以降30日間、イスラム教徒には日中の断食をはじめとする斎戒が義務づけられる。コロナ禍2年目となるラマダーン月を迎えるにあたり、今年も一部諸国が以下のような特別措置・判断を発表した。

 

【サウジアラビア】

●ラマダーン期間中、15歳以下はメディナの預言者モスク敷地への立ち入りを禁止

●COVID-19ワクチンを2回接種(最初の接種から14日以上が経過)、またはCOVID-19に罹患して完治した人のみ、メッカ聖モスクの訪問を許可。違反者は罰金1万リヤル(2666米ドル)

●聖モスクとメディナの預言者モスクでのラマダーン月の夜間礼拝(タラーウィーフ)を30分以内に限って許可

 

【UAE】

●政府非公認の慈善団体に寄付した人は禁錮3年及び50万ディルハム(13万6000米ドル)以下の罰金

●食料品3万点の値下げ、食料品店で25〜75%の値下げ

●飲食店で仕切り板なしでの食事提供を許可

 

【クウェイト】

※4月22日まで外出禁止発令中(19:00〜5:00)、飲食店の宅配は可(19:00〜3:00)、徒歩による外出許可(19:00〜20:00)

●上記措置を継続も、徒歩による外出許可の時間帯を19:00〜22:00に緩和

 

【オマーン】

※商業活動の停止および外出禁止発令中(20:00〜5:00)

●上記措置を継続も、時間帯を21:00〜4:00に緩和

●モスクでのタラーウィーフ礼拝は禁止

 

評価

 コロナ禍も2年目を迎え、断食が義務となるか、モスクで礼拝を行って良いかどうかといった基本的なルールは、すでに昨年のラマダーン月以降に確立している。このため、今年のラマダーン月は1年目ほどに蜂の巣をつついたような状況にない。また現行の制限を緩和する例も見られる。

 もっとも先述したように、これらはGCC内でのコロナ禍収束を意味するわけではない。サウジアラビアに関しては、メッカ・メディナの二大聖地を擁することから、聖モスクと預言者モスクでの巡礼・礼拝について厳しい措置を講じた。人数制限こそ設けられていないが、聖地でのパンデミックへの警戒はコロナ禍が完全に終息しない限り続くだろう。またUAEの慈善団体への寄付の制限は、ムスリム同胞団系の組織が活動資金を集める事態を警戒したものである。これはコロナ禍に限らないUAE政府の対応だが、ラマダーン月(貧者等への施しが奨励される)、さらにはコロナ禍という事態に乗じて非公認の(政府にとって競合勢力となりうる)イスラーム主義団体が活発化することへの強い警戒が見てとれる。

 

【参考情報】

 <中東かわら版>

「中東:新型コロナウイルス対策事情(ラマダーン月への対応)」2020年度No.8(2020年4月16日)

(研究員 高尾 賢一郎)

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