中東かわら版

№5 イラン:韓国船籍タンカーの解放

 2021年4月9日、韓国外交部は、イランが韓国船籍タンカーHANKUK CHEMIと乗組員13名(船長含む)を解放したと発表した。同日付『聯合ニュース』(韓国の通信社)によると、9日現地時間午前6時頃に同タンカーはイラン南部バンダル・アッバース港近くから出港した。乗組員に健康上の問題はないという。

 同日、イラン外務省もこれを事実と認めた。同日付『タスニーム通信』(イランの保守系通信社)によると、ハティーブザーデ外務報道官は韓国船籍タンカーの違反に関する事実調査が完了したため、韓国政府と船会社からの要望に基づき、検察が解放の許可を下したと発言した。また同報道官は、この地域においてタンカーとその船長に違反記録がなかったことも、検察の前向きな判断材料になったと述べた。

 同タンカーは、1月4日に革命防衛隊によって「海洋環境法の度重なる違反」の嫌疑で拿捕されていた(詳細は、下部【参考情報】参照)。

評価

 正式には明らかにされていないが、イラン・韓国は凍結資産(韓国国内にある約70億ドルとも目されるイランの凍結資産)をイランによる国際機関分担金や新型コロナウイルス対策物資の調達に充当することに、水面下で合意に向けて動いていると報じられている。本件に関し、韓国は米国と緊密に協議していたことから、米国はイラン凍結資産の解除を黙認ないしは了承した可能性がある。

 最も注目すべきは、イラン外務省は表向き「環境汚染」を事由にしているものの、今次事案が政治的な目的のためになされた可能性がある点である。イラン当局は一貫して本事案は凍結資産問題と無関係とし、司法手続きに則って裁く姿勢を見せていた。しかし、3カ月以上が経過してもなお、イランは手続きに着手していなかった。イランは、韓国側から凍結資産の解除を引き出すため、本事案を梃子として利用する思惑を有していたものと見られる。もしそうであるとすれば、イランは日本を含む各国に対しても同様の手段を講じる可能性は否定できず、日本としても官民連携を確かなものとし、ホルムズ海峡での航行の安全を着実に確保するための取り組みに全力を挙げる必要があるだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン:革命防衛隊が韓国船籍タンカーを拿捕」2020年度No.122(2021年1月6日)

・「イラン:革命防衛隊が韓国船籍タンカーを拿捕#2(事態の打開に向けた進捗状況)」2020年度No.126(2021年1月21日)

(研究員 青木 健太)

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