中東かわら版

№3 イラン:イラン・米国間の間接協議が始まるも協議は長引く見通し

 2021年4月6日、ウィーンに於いて、イラン・米国の間接協議が始まった。これは、米国のイラン核合意(JCPOA)への復帰、及び、イランを含む全ての当事国による遵守を目的に、JCPOA合同委員会の枠組みで行われたものである。イラン側はアラーグチー外務事務次官が代表し、米国からはマレー・イラン問題担当特使が代表を務めた。但し留意すべきは、今次協議はあくまでもイラン・米国にとっての間接協議であり、両国代表団は別室に構え、英・仏・独・露・中(P4+1)とEUが、両国代表団の間でシャトル外交をする点である。

 同日会談後、イラン外務省は、①制裁解除、及び、②核開発の2つの分野で専門家会合が並行して設立されたこと、そして、これらの専門家会合が技術的問題を討議した結果をJCPOA合同委員会に報告すると発表した。また、議長を務めた欧州対外行動庁のエンリケ・モラ事務次長は、「建設的な合同委員会だった。核開発と制裁解除に関する2つの専門家会合を設置するとともに、共同的な外交プロセスに向けて団結と熱望が見られた」とツイートした。次回協議は4月9日に行われることになっている。

 上記のように、今次協議の開始は、膠着状態の突破口になり得るとして肯定的に捉える向きもあるが、その一方で難航を予想する見方も根強くある。4月5日、米国務省のプライス報道官は、「協議は難航するだろうと予測している」と率直に認めている。また、イランのラビーイー報道官も同日、「協議の結果に対し、我々は楽観的でも悲観的でもない。しかし、正しい方向に向かっていると信じている」と発言した。

評価

 今次の間接協議の開始によって、イラン・米国両国が間接協議とはいえ、対話のチャンネルを開いた点は前向きなものと評価できる。トランプ政権下では、ペルシャ湾岸における革命防衛隊による米軍無人機の撃墜(2019年6月20日)や、米軍によるソレイマーニー革命防衛隊ゴドス部隊司令官殺害(2020年1月3日)などによって幾度となく軍事的緊張が高まる局面を迎えたにもかかわらず、両国は対話のチャンネルを有していなかった。本年1月に誕生したバイデン政権が外交と同盟関係を重視する中、今般、JCPOA復帰に向けた外交努力を本格化させたことは緊張の低減に向けて価値ある第一歩だといえる。

 他方で、以下3点から、今後の協議は難航することが予想される。第一に、イラン側は強硬な姿勢を崩しておらず、今後も譲歩する可能性は低いと見られる。ハーメネイー最高指導者は、JCPOAの遵守に当たっては、先ず米国が制裁を解除すべきとの立場を明確にしている(詳しくは『中東かわら版』2020年度No.136参照)。4月3日にはハティーブザーデ外務報道官が改めて、「段階的な制裁解除は認められない」と釘を刺した。また翌4日、保守強硬派が多数を占めるイラン国会は、全ての制裁解除を一括要求するとともに国内生産を強化する声明を発出し、新たに始まる協議で政府が譲歩しないよう牽制している。

 第二に、米国内ではJCPOAの範囲を拡大させようとの意見も根強く、バイデン政権がイランに譲歩することを抑制すると見られる。3月25日、米共和党・民主党議員43名はバイデン大統領に対し、「両党には意見の相違もあるが、イランの核兵器保有を阻止すること、及び、イランによる幅広い領域での行動を規制することでは団結している」との書簡を発出した。こうした超党派議員団は、イランによるミサイル開発と地域における不安定化活動を危険視しており、JCPOAの範囲を拡大せよとの主張を続けるものと見られる。仮にバイデン政権がイランに対する全面的な制裁解除に踏み切れば、米国内で強い反発を呼ぶと考えられる。調整型のリーダーとされるバイデン大統領が、国内の異論を無視して大胆に舵を切れるかには疑問が残る。

 第三に、米国がJCPOAに復帰することに対しては、イスラエルやサウジなどの域内諸国が反対しており、将来的に妨害工作が発生する懸念は拭えない。2020年7月にはナタンズ核関連施設が爆発によって大規模に損壊した他、同年11月にもファフリーザーデ核物理学者が暗殺されるなど、イランを巡る不穏な事件は後を絶たない(注:いずれの事件も犯行主体は不明)。今次協議の枠組みに、これら諸国は含まれていない。このことは将来の不安要素である。

 とはいえ、JCPOAの履行という共通の目標に向けて、イラン・米国が歩み始めたことはやはり大きな前進である。今後、間接協議という形式上、仲介役となるP4+1とEUの役割が重要である。ザリーフ外相は、4月2日のJCPOA合同委員会後、英外相と仏外相と個別に電話会談し(4月3日)、E3はJCPOA規定上の義務をよく理解する必要がある旨訴えている。イランは包括的協力協定を3月27日に結んだ中国に対しても、米国に圧力を加えることを期待していると見られる。4月13日には、ロシアのラブロフ外相によるイラン訪問も予定される。今後、各国は、自らの利益の獲得に向けて、水面下で活発な外交を展開するものと考えられる。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東分析レポート>【会員限定】

・「イラン核合意を巡るイラン・米国対立と今後の展開 ~イラン国内諸派間の関係性に着目して~」R20-14(2021年3月22日)

(研究員 青木 健太)

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