中東かわら版

№2 ヨルダン:ハムザ王子らの逮捕

 2021年4月3日、ヨルダンの治安当局がハムザ・ビン・フサイン王子(元皇太子、アブドッラー2世国王の異母弟)、ハサン・ビン・ザイド(王族と報じられている)、バーシム・アワダッラー元財務相らを逮捕し、自宅軟禁に処したと報じられた。その後、ハムザ王子の拘束時の音声・動画が、同王子から間接的に英BBCやカタル系のMiddle East Eyeなどのメディアに渡され、拘束時の様子が報じられた。以下は、5日にサファディー副首相兼外相が発表した同王子らの逮捕と、BBCやMiddle East Eyeが報じた逮捕時の様子である。他方、6日、ハムザ王子はアブドッラー2世国王に忠誠を誓う書面に署名したと報じられた。

 

【サファディー副首相兼外相の発表(5日)】

  • ハムザ王子と側近らがヨルダンの安定を揺るがす行動を計画したため、14~16人を逮捕した。
  • 軍や諜報機関は長期間にわたりハムザ王子、ハサン・ビン・ザイド、アワダッラー元財務相の行動を調査した。ハムザ王子や側近らは、外部勢力や国内の反政府派と連絡をとり、ヨルダンの安定を損なう行動の計画を練った。調査結果に基づき、アブドッラー2世国王に法的措置を進言した。
  • ハムザ王子は事実と異なる内容をアラビア語と英語の動画で述べた。

【BBC、Middle East Eyeで報道された音声・動画内容(5日)】

  • ハムザ王子:今朝、ユースフ・フネイティー合同参謀本部議長(ヨルダン軍トップ)が私のもとを訪れ、私に対し、外出や人々と話したり会ったりすることが許されないと通達した。私が会合やソーシャル・メディアで政府や国王を批判したからだという。過去15~20年間政府の腐敗や無能さは悪化し、人々は国家機関への信頼を無くしているが、私は関与していない。(BBC)
  • フネイティー合同参謀本部議長:王室に不満をもつ部族指導者やその他勢力との連絡を停止しなければならない。国王代理ではなく、軍・治安諜報機関の代理として伝えている。
  • ハムザ王子:誰も私が私の人民と話すことを止めることはできない。あなた達がこの国を壊し、腐敗を広げた。そして今やあなたが私を非難するというのか。(Middle East Eye)

 

評価

 今回のハムザ王子の件は、アブドッラー2世国王と軍・治安諜報機関が、王室内の王室・政府批判勢力を強制的に封じ込めた出来事といえる。ヨルダンは伝統的な王制を敷く非民主的な国だが、政治が大きく不安定化することもなく、比較的安定した統治が続いていた。今回の件で、ヨルダン王室内にアブドッラー2世統治体制に不満分子が存在することが明らかになった。ヨルダンには人々を動員できる有力な反体制派は存在しない。しかし、王室内部に反対派が存在することは、王制という政治体制の根本を揺るがしうる要素である。今後、王室と治安機関は社会の諸勢力に対する監視と統制を強化していくと思われる。

 今回の出来事に対し、イスラエル、パレスチナ自治政府、エジプト、湾岸王制諸国、モロッコ、スーダン、その他諸国が、即座にアブドッラー2世国王による国家安定の措置を支持した。この動きには、ヨルダンが中東の様々な紛争の狭間に置かれた緩衝国家として安定が望まれるという意味や、イスラエル・パレスチナ対立における重要な仲介者として安定が望まれるという意味が含まれる。このような諸外国からの国王支持もあり、アブドッラー2世国王の体制は今後も継続されるものと考えられる。

(上席研究員 金谷 美紗)

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