中東かわら版

№145 アフガニスタン:和平交渉の進展に向けてモスクワ会合が開催

 2021年3月18日、モスクワに於いて、ロシア主催による拡大版「トロイカ」会合(以下、モスクワ会合)が開かれた。これまでの通常の「トロイカ」会合では、ロシア、中国、米国、及び、パキスタンの4カ国のみが参加していたが、今次会合にはアフガニスタン和平の仲介に深く関わるカタルとトルコの特使もオブザーバーとして招待された。映像を確認する限り、会合は、全体的に和やかな雰囲気の中で進められた模様である。

 今次会合にはアフガニスタン政府代表団(団長:アブドッラー国家和解高等評議会議長)、及び、ターリバーン代表団(団長:バラーダル副指導者兼カタル政治事務所代表)が参加し、各々の代表者が自らの政治的主張について演説した。

 冒頭、ロシアのラブロフ外相が開会演説し、アフガニスタン政府・ターリバーン双方に対して柔軟な姿勢で真摯に和平交渉に臨むよう求めるとともに、アフガニスタンの問題はアフガニスタン人が解決すべきであり外部者は押し付けを止めるよう呼びかけた。また、アブドッラー議長は、アフガニスタンは過去20年間に目覚ましい発展を遂げており、選挙、基本的人権、表現の自由、及び、女性の権利に代表されるこれまでに築いた成果を将来に引き継ぐ意思を強調した。その一方で、バラーダル副指導者は、ターリバーンはドーハ合意を遵守しており、米国はドーハ合意に基づき期限(注:2021年5月)までに全軍撤退するべきだと述べ、米軍撤退後にアフガニスタン人同士で恒久的停戦とイスラーム統治の実現について話し合うつもりだと発言した。

 今次会合後、4カ国による共同声明が発出された。その概要は以下の通りである。

  1. 我々は、持続可能な平和は、交渉を通じた政治的解決によってのみ実現可能であることを確認する。
  2. 我々は、アフガニスタン紛争当事者全てに対し暴力を削減すること、ターリバーンに対し春季攻勢を行わないことを求める。
  3. 我々は、イスラーム首長国の再興を支持しない。また、我々は、アフガニスタン政府に対し、政治的解決に向けてターリバーンと胸襟を開いて交渉することを求める。
  4. 我々は、アフガニスタン人同士の交渉当事者に対し、将来の国家体制、包摂的な政府の樹立に向けた政治的ロードマップ、恒久的且つ包括的な停戦のモダリティを含む基本問題の解決に向けて即座に取り組むよう求める。
  5. 我々は、テロや麻薬密輸がなく、独立し、主権を保ち、団結した、平和で民主的で自立しているアフガニスタンが成立することを強く望む。
  6. 我々は、アフガニスタン政府とターリバーンを含む全てのアフガニスタン人に対し、テロ組織・個人が他国の安全を脅かす目的でアフガニスタンの領土を使用させないことを求める。
  7. 我々は、如何なる和平合意にも、女性、男性、子ども、戦争被害者、少数民族などの全てのアフガニスタン人の権利の保護が含まれるべきことを再確認する。
  8. 我々は、全ての関係国に対し、アフガニスタン和平を支援するよう慫慂する。
  9. 我々は、カタル政府によるアフガニスタン和平の促進における長期に渡る支援に感謝する。
  10. 我々は、政治的解決を支援する全ての国際的な支援を歓迎する。また、グテーレス国連事務総長がアルノー氏(注:元フランス人外交官、和平調停分野で豊富な実績と経験を有する)をアフガニスタン・地域問題担当特使に任命したことを認識し、国連がアフガニスタン和平において建設的な役割を果たすことを歓迎する。

評価

 今次のモスクワ会合は、ドーハ合意に基づく米軍の完全撤退期限が2021年5月に近づく中、アフガニスタン政府・ターリバーン間の和平交渉を促進することを目的として、ロシア主催で開かれた。米国のブリンケン国務長官書簡には記載がなかったことから、ロシアが発案した会合と見られる。ロシアはこれまでも和平支援をしてきたが、今回仲介役を申し出ることで、アフガニスタン和平に対して影響力を有することを対外的に示すことが狙いだったと考えられる。また、上述の通り、ラブロフ外相が、外部者によるアフガニスタンへの干渉を控えるよう要求していることは、内政干渉と受け止められる行動をとる米国への牽制だろう(詳しくは『中東かわら版』No.141参照)。それでも、今次会合には以下の2点で意義がある。

 第一に、今次会合は、長らく膠着状態にあった和平交渉の進展に資するものである。2020年9月12日にドーハで始まった和平交渉は、21カ条から成る行動規範に合意した以外、目立った進展を見せていなかった。特に、2021年に入ってからは、ターリバーンが、ロシア、イラン、トルクメニスタンに交渉団を派遣し対外関係の拡大に注力するなど、本来の対話相手であるアフガニスタン政府をないがしろにしていた。この点で、交渉当事者双方に多大な影響力を有するロシアが圧力をかけたことは、今後の和平交渉の進展を期待させるものである。

 第二に、モスクワ会合主要4カ国が、ターリバーンが軍事的手段を用いて権力を奪取することを認めない立場を公にした点が挙げられる。共同声明は、「イスラーム首長国の再興を支持しない」(第3項)と明言し、「ターリバーンに春季攻勢を行わないことを求める」(第2項)としている。現在、アフガニスタン国内での軍事的優位を背景に交渉を有利に進めたいターリバーンに対して、こうした外部からの圧力は一定の効果を与えるだろう。

 他方で、今次会合自体は和平交渉ではなく、あくまでもそれを促進するための会合との位置づけであり、今次会合によって和平交渉が劇的に進展したわけではない。特に、アブドッラー議長とバラーダル副指導者の発言からは、将来の政治体制に関して全く相反する未来像が示されている。両者の主張の間には乖離があり、これを残り1カ月余りで埋めることは並大抵ではない。仮に、米国が、米軍撤収期限を念頭に、交渉当事者の共通理解が不充分なまま和平合意を急いで結ばせた場合、将来に問題を先送りすることになる。脆弱な和平合意は、将来的に「紛争の逆戻り」という不安材料を残す恐れがある。今後、4月に予定されるトルコ主催の会合、及び、国連主催の会合において、アフガニスタン政府が権力の一部をターリバーンに譲ることを承諾するか、そしてターリバーンが「移行政権」の設置などの折衷案によってアフガニスタン政府と納得の上で合意できるかが焦点となる。

(研究員 青木 健太)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP