中東かわら版

№144 アルジェリア:前倒しの議会選挙が6月12日に実施

 2021年3月11日、タブーン大統領は、6月12日に国民議会(下院)選挙を実施する旨の大統領令に署名した。現議会はブーテフリカ政権期の2017年5月に選出され、任期は2022年5月まで残っているが、タブーン大統領は前倒しの議会選挙を決定した。また議会選挙に向けて、選挙法も改定され、若手議員枠の拡大や選挙資金の監視などの条項が盛り込まれた。

 与党の民族解放戦線(FLN)やアルジェリアの希望連合(TAJ)は前倒しの選挙を歓迎し、野党のイスラーム主義政党・平和社会運動(MSP)及び国民改革運動も選挙への参加を表明している。

 

評価

 議会選挙の早期実施は昨年11月の憲法改正に続く、タブーン大統領の政治改革の一つである。反政府勢力はブーテフリカ大統領の5期目を支持した議員が多数派を占める議会の解散を2019年より要求しており、抗議デモは開始から2周年を迎え、各地で活発化している。こうした状況下、タブーン大統領は国民の不満の広がりを抑えるため、議会解散のカードを利用したと言える。そして選挙に際して、開発が遅れる南部地域で選挙区を増設したり、新選挙法に若手議員枠の拡大を含めたりと、あらゆる優遇策を通じて不満の芽を摘み、デモの鎮静化を図ろうとしている。

 また、タブーン大統領には、ブーテフリカ政権下で選出された現議会を刷新することで、議会内での自らの権力基盤を強化する思惑がある。議会選挙の見通しでは、与党のFLN及び民主国民連合(RND)が優勢であるものの、選挙に参加する野党も政府への不満の受け皿となることで議席数を伸ばすだろう。その場合、閣僚の任免権を持つタブーン大統領は閣僚ポストを分配することで、野党を連立政権に取り込む策に打って出る可能性も考えられる。過去、ブーテフリカ政権期にはイスラーム主義政党MSPが大統領支持派に転じた経緯がある。

 その一方、労働党(PT)やベルベル地域を基盤とする社会主義勢力戦線(FFS)及び文化民主連合(RCD)は、大統領主導の政治改革に反対するため、選挙への不参加が予想される。また、昨年の国民投票で特に低い投票率を記録したアルジェ(約14%)やベルベル地域(全地域で10%以下)では、政府に不満を持つ有権者が多いため、今回も多くの有権者が投票を棄権すると思われる。反政府勢力は「民主的な国家」の建設を要求しているが、タブーン大統領は譲歩する姿勢を示さず、一連の政治改革を通じて民意を得たとし、政治混乱の幕引きを目論んでいる。こうした大統領による一方的な政治改革が続く限り、政権と反政府勢力間の対話の機会は失われ、抗議デモは更に活発化するだろう。

  

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「アルジェリア:憲法改正が国民投票で承認」No.96(2020年11月6日)

・「アルジェリア:内閣改造(ジェラード第3次内閣)と議会の解散」No.138(2021年2月25日)

 

(研究員 高橋 雅英)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP