中東かわら版

№142 モロッコ・ヨルダン:ヨルダンが西サハラに領事館開設

 2021年3月4日、ヨルダンは係争地の西サハラ地域に領事館を開設した。在ラーユーン領事館の設置は、昨年11月19日のムハンマド6世国王・アブドッラー2世国王間の電話会談時に発表されたものである。ヨルダンはUAE(2020年11月)とバハレーン(同年12月)に続き、中東諸国で同地域に外交拠点を持つ3番目の国となった。

 開設式典に参加したヨルダンのサファディー外相は、ラーユーンでの領事館開設は、ヨルダンがモロッコの領土的一体性を支持するという確固たる立場や、西サハラ地域の帰属問題の解決に向けて同胞諸国と共に協働する立場を確認することを意味すると述べた。また、西サハラ問題の解決については、国際的決定(=国連安保理決議)や同胞国モロッコが提案した自治イニシアチブに基づき進めていくべきと述べた。

評価

 ヨルダン領事館の開設計画は昨年11月13日の西サハラ地域の緩衝地帯ゲルゲラートでポリサリオ戦線・モロッコ軍間の衝突が起き、西サハラ問題が表面化した後に発表された。その点を踏まえると、モロッコには各国領事館の設置を促すことで、同問題で優位な立場を維持する狙いがあると言える。モロッコは君主国家同士の友好関係に基づき、ヨルダンやUAE、バハレーンなどと親密な関係を保持し、これら中東諸国はモロッコの立場を全面的に支持している。

 また2019年以降、中東諸国以外でも西サハラ地域に領事館を開設する動きが進んでいる。アフリカの16カ国が相次いで領事館を開き、2021年1月10日にはアメリカのトランプ前政権も同地域のダフラに開設した。アメリカは2020年12月、イスラエルとの国交正常化に向けてモロッコの積極的な姿勢を引き出すために西サハラ地域へのモロッコの主権を承認した。  

 ヨルダンは西サハラ問題に関して元来モロッコを支持する立場であるが、この時期にラーユーンに領事館を開設した理由には、アメリカがイスラエル・モロッコ国交正常化の地ならしとしてモロッコの西サハラ地域への主権を承認したことが影響したと考えられる。イスラエルと和平条約を締結したヨルダンは国交正常化を容認しており、さらにアメリカも西サハラ地域への主権を承認したとなれば、ヨルダンが西サハラ地域に関する自国の立場を公式化する大きな後押しとなる。

 今後の注目点は、モロッコが各国領事館の設置数を更に増やすことができるかである。国連仲介の和平案が停滞する中、モロッコは西サハラ問題で自国に有利な環境を整えつつある。これに対し、国連仲介の解決策を支持する国々のなかにはモロッコの行動を牽制する動きがみられ、特にモロッコ・ドイツの外交関係は著しく悪化した。こうした状況下、モロッコはサウジやカタルなど他のアラブ諸国に加えて、モロッコ主権下での自治案を評価するフランスから領事館開設を誘致できれば、帰属問題での自国の地位をより強化できるだろう。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

<中東かわら版>

・「モロッコ・イスラエル:モロッコとイスラエルが国交正常化に合意」No.113(2021年12月11日)

 <中東トピックス>【会員限定】

・「モロッコ:ポリサリオ戦線との緊張が高まる」No.T20-08(2020年11月号)

 

(研究員 高橋 雅英)
(上席研究員 金谷 美紗)

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