中東かわら版

№141 アフガニスタン:米軍撤退期限を目前にバイデン政権による政治的動きが活発化

 ドーハ合意に謳われる駐留米軍撤退期限が2021年5月に近づく中、同合意の見直しを公言する米国のバイデン政権が政治的動きを活発化させている。

 2021年3月7日、民放『トロ・ニュース』(独立系)は、米国のブリンケン国務長官がガニー大統領宛に送った書簡を公開した。同書簡において、ブリンケン長官は、①国連に対してロシア・中国・パキスタン・イラン・インド・米国による外相級会合を開催するよう要請すること、②米国がドラフトした「和平合意草案」を基にアフガニスタン政府がターリバーンとの和平交渉を加速化させること、③トルコに和平交渉を最終化させるための会合を開くよう要請すること、④ターリバーンによる春季攻勢を防ぐため90日間の暴力削減を実行する必要があること、の4点をガニー大統領に伝達し、協力を要請した。また、同長官は、当初計画通り、本年5月までに米軍を完全撤収させる選択肢も残されている、と付言した。なお、翌8日、アブドッラー国家和解高等評議会議長は同書簡を受け取ったと述べていることから本物だと考えられる。

 上記②で言及された「和平合意草案」には、アフガニスタン政府とターリバーンが暫定的に設置する「和平移行政権」に参画し相互に権力分有を図ること、現行憲法を基礎に新しい憲法を制定しロヤ・ジルガ(国民大会議)で承認を得ること、司法を統括する「イスラーム法学高等評議会」を設置すること、「停戦監視委員会」が停戦の履行をモニタリングすること等々、国家体制の将来像について詳しく記載されている。

 また、バイデン政権は、3月1日にハリールザード和解担当特別代表をカーブルに派遣しガニー大統領、及び、アブドッラー議長らと協議させた他、6日には同特使をドーハに移動させターリバーンのバラーダル副指導者兼カタル政治事務所代表と協議させている。これらの協議において、同特使は米国側の要求事項について説明したものと考えられる。

 こうした米国の動きに対し、アフガニスタンの有力政治家らは反発の声を上げている(下図参照)。8日、サーレフ第一副大統領は現行憲法と国民による投票の権利は決して譲ることのできない価値だとした上で、外部から押し付けられた和平は受け入れられないと米国の「高圧的」な態度に反発した。ターリバーンは即座に反応していないが、2月16日に「米国民への公開書簡」を、同28日にはドーハ合意締結1周年を祝う声明を発出し、米国がアフガニスタンの内政に干渉しないこと、並びに、ドーハ合意を履行することを要求した。

 

図 アフガニスタン和平を巡る現在の構図

(出所)筆者作成

評価

 今次の米国の動きは、バイデン政権が重視する外交的アプローチによる膠着状態の打開に向けたものにも見えるが、実際のところ、アフガニスタン側からは内政干渉だと受け止められている。特に、ターリバーンとの挙国一致体制により権力を奪われる形となるガニー大統領にとり、米国の提案は到底容認できないものであろう。この意味で、バイデン政権の今次の対応は、トランプ政権が残したドーハ合意を負の遺産にしないための果敢な努力ではあるものの、アフガニスタン政府の態度を硬化させた点で「勇み足」だったと言える。

 もっとも、バイデン政権は、本年5月までに残り2500名の駐留米軍を完全撤退させればアフガニスタンが再びテロの温床となりかねない瀬戸際にあり、ドーハ合意を反故にせず、且つ、自国の安全を確保せねばならない難局に直面している。40年以上混乱状態にあるアフガニスタンにおいて、諸勢力を包摂する新しい国の形が求められること自体は間違いない。その一方、ターリバーンは、先ずは米国がドーハ合意を履行するよう累次に亘って要求している。このように関係者の利害が衝突する状況下、ターリバーンが「傀儡」と認識するガニー政権との間に新たな政治合意を結ぶことは俄かには考えづらい。今後、政治・軍事両面での強硬姿勢を貫くターリバーン、権力に固執するガニー大統領、そして難しい対応を迫られるバイデン政権という多重の障壁を抱えた構図の中で物事が動いていくものと考えられる。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「アフガニスタン:バイデン米政権による対アフガニスタン政策の見直し」2020年度No.131(2021年2月3日)

(研究員 青木 健太)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP