中東かわら版

№137 イラン:IAEA追加議定書の暫定適用を停止

 2021年2月23日、イランは国際原子力機関(IAEA)の追加議定書(AP: Additional Protocol)の暫定適用を停止すると発表した。同日、ザリーフ外相は記者に対して、23日を以てAPの暫定適用を停止すると表明した一方、保障措置協定(SA: Safeguards Agreement)の履行を続けると述べ、IAEAとの円満な関係を強調した。また、同外相は、IAEAには提出しないものの、イラン核関連施設においてカメラで撮影される映像を3カ月間保管すると述べた。

 先立つ20~21日、IAEAのグロッシ事務局長はテヘランを訪問し、サーレヒー原子力庁長官、及び、ザリーフ外相と会談した。協議の結果、21日、原子力庁とIAEAは、①イランが引き続きSAを守ること、②「暫定的な両者間の技術的了解」とした上で当面3カ月間は査察を続けること、③今後も再検討を重ねること、の3点で合意しておりイラン側がある程度柔軟な姿勢を示していた。

 今次の動きに対して、22日、国会は「制裁解除とイラン国民の利益保護のための戦略的措置」法案(以下、戦略的措置法案。詳しくは「中東かわら版」No.110を参照)を行政府は履行していないとして司法府に異議を申し立てることを決定、反発する姿勢を鮮明にした。23日、英・仏・独(E3)は今次動きに対して「深刻な憂慮」を表明し、透明性に疑義を生じさせ得るあらゆる措置の撤回を求めた

評価

 IAEAは、原子力の平和的利用からの軍事転用防止を目的に、1957年に創設された国際機関である。IAEAは、同目的を達成するため、各国との間で原子力活動の査察を含めた検認制度としてSAを定めている。今回、イランが暫定適用を停止したAPは、IAEAとSAを締結した国との間で、追加的に結ばれる査察強化のための議定書である。2020年12月31日時点で、136カ国と1つの国際機関がAPに署名しており、これらの国々で効力を発している(注:この他14カ国が署名しているが未発効)。APを締結した場合、IAEAは当該国においてSAよりも広範な保障措置活動を行う権限を与えられる。具体的には、イランはAP下で、(1)IAEAへの情報提供、(2)IAEAによる査察の受け入れを義務付けられる(注:但し、イランは2003年12月18日にAPに署名しているが国内での批准手続きを済ませておらず、暫定適用であると主張している)。このように、今般のイランによるAPの暫定適用停止は、IAEAによる原子力活動の監視を完全に遮断することを意味するわけではない。

 今次動きからは、当面3カ月間はIAEAからの必要な検証とモニタリング活動を受け入れ続ける姿勢を示した点で、イランがIAEAに譲歩した形跡が色濃く見られる。この点は、交渉の末、IAEA側が得た利益と呼べる。また、米国、及び、JCPOA当事国との制裁解除をめぐる対話に向けて、イランが強硬姿勢を崩して将来の交渉にスペースを確保した点はイラン側の計算である。この意味で、今次の動きは、イラン・IAEA双方が歩み寄れるギリギリの線で妥結したものと小括できる。

 国際協調路線を掲げる行政府のこうした外交戦術に対し、強硬派が多数を占める国会(立法府)は強く反発している。昨年12月に可決された戦略的措置法案に基づくと、イランはP4+1(仏、英、中、露、独)が銀行・原油取引の正常化義務を遵守できなければ、追加議定書の暫定適用の停止を義務付けられることになっていた。しかし、行政府はIAEAによる必要な検証とモニタリング活動を受け入れる対応をとっており、解釈の余地を残している。国会は、こうした行政府の対応を、法案履行の「拒絶」と受け止めており、責任者に重度の刑罰を科すことも含めた深刻な対処を検討している。イラン国内における強硬派と穏健派の不和は、今後も不安要素として燻り続けるものと考えられる。また、3カ月以内にIAEAによる必要な検証とモニタリング活動の期限が切れることから、当面、イランと米国・E3との間で押し問答が続くだろう。

(研究員 青木 健太)

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