中東かわら版

№136 イラン:ハーメネイー最高指導者による核合意遵守の条件提示とその示唆

 2021年2月7日、ハーメネイー最高指導者は空軍司令官たちの前で演説し、イラン核合意(JCPOA)の遵守に当たっては、先ず米国が制裁を解除すべきとの立場を明確にした。今次演説は、1979年2月8日(イラン暦1357年バフマン月19日)にパフラヴィー政権(当時)の空軍将校らがホメイニー師に忠誠を誓ったことにちなみ、イスラーム体制にとり国威発揚の場である革命記念日42周年を目前に行われた。ハーメネイー最高指導者は演説で、「もし(米国が)イランにJCPOAを遵守させたいのなら、米国が制裁を完全に解除しなければならない」として、JCPOA完全遵守の条件を明示した。また、同最高指導者は、これは言葉や書類上だけでなく実行される必要があると強調した上で、「イスラーム共和国による決定的な政策」と述べ、全ての関係者に守るよう指示した。

 一方で、米国のバイデン大統領は7日に放送された『CBS』のインタビュー(注:収録は5日)で、「米国はイランを交渉のテーブルに戻すため、先に制裁を解除しますか?」とのアンカーからの質問に対し、「しない(No)」と答えた。 

評価

 今次発言により、イラン・米両国の首脳から公にJCPOA復帰についての立場が示された。両国が互いに相手側に対して、先に条件の履行を要求していることが再確認される。バイデン政権発足後、両国関係修復に期待がかかる一方、その道のりは険しいことが改めて浮き彫りとなった。米国がこのように強気の姿勢を示す背景には、「イランは急いでいる」との予断があるものと考えられるが、そう考えることは慎重にすべきである。

 その理由として、ハーメネイー最高指導者は昨年12月に、制裁の「無効化」を重視する方針を表明していることがある(詳細は『中東かわら版』No.117参照)。ここで言う「無効化」とは、仮に制裁が続いた場合でもイランが自活できることを指す。この方針に沿い、イランは中国との25年間に及ぶ包括的諸協力計画の締結を通じて原油輸出を拡大させる準備を進めている他、今月8日にはハーメネイー指導者はガーリーバーフ国会議長をロシアに派遣し親書を手交させるなど、中・露との経済関係強化を着々と図っている。軍事面では、今月中旬にも、イラン・中・露の3カ国による合同海軍演習が計画されている。このように、ハーメネイー最高指導者にとり、制裁解除の追求はあくまでも選択肢の一つとの位置づけである。仮に欧米諸国が「イランが先に折れるはずだ」との想定のもとに交渉を続ける場合、イランが核開発を拡大させるとともに中・露と更に接近を深めるなど、彼らに不利な状況を作り出す懸念がある。

 また、イラン・米国間の交渉といっても、実際のところ、JCPOA合同委員会(高級実務者級、閣僚級)などの多国間協議を通じて接触が図られることになる。したがって、今後、バイデン政権が英・独・仏をはじめ同盟国とどのように信頼関係を再構築するかが重要になるだろう。

(研究員 青木 健太)

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