中東かわら版

№138 アルジェリア:内閣改造(ジェラード第3次内閣)と議会の解散

 2021年2月21日、タブーン大統領は内閣改造を行い、エネルギー相や産業相を交代させた。また同日、タブーン大統領は国民議会(下院)の解散に係る大統領令に署名し、1年前倒しの議会選挙が6カ月内に実施される見通しである。今次内閣改造の新閣僚は以下の通りである。 

 

エネルギー・鉱業相

【統合】

ムハンマド・アルカーブ

元エネルギー相、前鉱業相

産業相

ムハンマド・バーシャー

前国家経済社会環境評議会(CNESE)・経済調査部長

デジタル化・統計相

ホシーン・シャルビール

元国立行政学院(ENA)校長

住宅・都市計画相

ターリク・ベラリービー

前住宅改良・開発機構(AADL)長官

公共事業・運輸相

【統合】

カマール・ナースリー

元住宅・都市計画相

水資源相

ムスタファー・カマール・ミーフービー

前水資源省事務次官

観光・手工業相

ムハンマド・アリー・ブーガージー

元ブーテフリカ大統領顧問

環境相

ダリーラ・ブージュマ

元環境副大臣

(出所)国営通信「APS」及び「TSA」

 

評価

 今般の内閣改造では、エネルギー相と産業相が更迭された。その点を踏まえると、タブーン政権が石油・天然ガス部門や産業分野(特に自動車部門)で政策転換を図る方針がみられる。アッタール・前エネルギー相は炭化水素公社Sonatrach総裁での実績を期待されて就任したものの、石油・天然ガス部門を立て直すことができず、わずか8カ月で更迭された。2020年の石油・ガス輸出はCOVID-19感染拡大抑制策に伴う需要減少と油価低迷の影響を大きく受け、エネルギー省によると、輸出量は前年比でマイナス11%、輸出額はマイナス40%になる見通しである。

 新閣僚の注目点は、元ブーテフリカ政権関係者であるブーガージー観光・手工業相、及び、ブージュマ環境相が入閣したことである。特に、ブーガージー氏は2011年から2019年4月まで大統領顧問を務め、ブーテフリカ元大統領の弟サイードとも親しい関係である。タブーン政権が前政権との決別を掲げながらも前政権関係者を登用したことは、反政府勢力を刺激する要因となるだろう。

 また、議会の解散が発表された背景には、タブーン政権が2月22日の反政府デモ(ヒラーク運動)開始2周年に際し、昨年11月の憲法改正に続く政治改革を演出することで、不満の芽を摘む狙いがあったと考えられる。こうした思惑は、同政権が最近、拘留中の反政府デモ参加者に恩赦を与えて釈放した点からも確認できる。議会選挙の見通しについては、ブーテフリカ政権期の御用政党、与党・民族解放戦線(FLN)と民主国民連合(RND)は苦戦が予想されるが、全国で組織的動員力を持つアルジェリア労働者総同盟(UGTA)などの支援を得られた場合、FLN・RND両党が下野する可能性は低いだろう。一方の反政府勢力側は憲法改正に係る国民投票と同様に、ボイコット活動を展開すると予想される。

 反政府デモが首都アルジェでも再活性化する現状下、タブーン大統領の健康問題も懸念される。タブーン大統領は昨年10月にCOVID-19に感染し、ドイツの病院で2カ月の治療を終えて12月29日に帰国したものの、COVID-19の合併症を右脚に発症し、翌1月10日に再びドイツでの治療に入った。その後、大統領は手術を終えて2月12日に帰国したが、後遺症の有無や今後の職務遂行能力を懸念する声がある。ブーテフリカも健康問題を抱え、それが反政府勢力からの批判材料となった経緯があるため、今後、政権の安定を見るにあたって、タブーン大統領が健在ぶりをアピールできるか否かが注目される。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。 

<中東かわら版>

・「アルジェリア:憲法改正が国民投票で承認」No.96(2020年11月6日)

 

<中東トピックス>【会員限定】

・「アルジェリア:ドイツで療養中のタブーン大統領が帰国」T20-09(2020年12月号)

・「アルジェリア:タブーン大統領がドイツで再入院」T20-10(2021年1月号)

 

(研究員 高橋 雅英)

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