中東かわら版

№135 イエメン:バイデン米政権がアンサールッラー「テロ組織」指定を撤回

 2021年2月5日、米国はイエメン戦争の早期解決を目的に、アンサールッラー(通称フーシー派)に対する「テロ組織」指定の撤回を発表した。前日のバイデン大統領による外交演説では、イエメンの人道状況悪化を避けるため、同国に軍事介入するサウジ・UAEへの武器売却停止が発表された。今般の撤回は、バイデン政権が放ったイエメン政策の「二の矢」である。

 アンサールッラーが支援する国民救済政府は、4〜5日に発表された米国の決定について、米国外交の新しい潮流であり、正しい歩みだと歓迎した。そして国連に、支配地域に課されている物流の封鎖等の措置を全て解除すべきだと発表した。一方で対立する統一政府は、米国の一連の決定をイランに利する行為と評し、アンサールッラーをますます活発化させ、イエメン戦争の終結を遠ざける判断だとして遺憾の意を表明した。なお、統一政府を支援するサウジは公式な声明を控えているが、ファイサル・ビン・ファルハーン外相とブリンケン国務長官が5日に電話会談し、イランへの対応で協議・協力を進めることを強調した。

 

評価

 米国はトランプ政権終盤の1月10日にアンサールッラーの「テロ組織」指定を発表し、統一政府と統一政府の支援国であるサウジはこれを歓迎した。一方、イエメン国内の同派の支配地域では米国の決定を受けて抗議デモが散発し、人道支援団体からは同決定がイエメン国内の貧困状況を助長するとの懸念が表明されていた。このためバイデン政権発足前後から、米国は「テロ組織」指定の見直しを示唆していた。

 イエメン国内(統一政府・国民救済政府)の反応は、米国の決定が自派に利するなら支持、そうでなければ反対という単純なものだ。一方でサウジの沈黙は、米国から相応のバーターが事前に提示されたためと考えられる。米国はイエメン政策の路線変更と並行してサウジへの安全保障面での支援継続を強調しており、ひとまずはこれがサウジにとって安心材料となっている。ただし、今後米国がJCPOA復帰を念頭にイランと直接協議を進める場合、事態は全く異なる。米国のJCPOA復帰はサウジにとって一つのレッドラインであり、米国がこれに踏み切る場合、サウジに新たな、より大きなバーター材料を用意する必要があるだろう。

 

【参考】

中東かわら版「イエメン:反体制支配地域での反米デモ拡大」No.128(2021年1月27 日)

中東かわら版「サウジアラビア・UAE:バイデン米政権のイエメン政策についての反応」No.132(2021年2月5日)

(研究員 高尾 賢一郎)

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