中東かわら版

№134 リビア:新統一政府の選定

 2021年2月5日、ジュネーブで開催中の「リビア政治対話フォーラム(LPDF)」において、新たな統一政府のメンバーが選定された。LPDFは、西部・東部・南部地域それぞれの有力者や部族などの代表者75名で構成される。候補者の選定方法は、国連リビア支援ミッション(UNSMIL)が1月30日に発表した45名の候補者のうち、24名から政府を監督する執行評議会メンバー(議長及び副議長2名)を選び、残り21名から首相ポストを選出するという方法である。

 5日の第1回投票ではいずれの候補者リストも必要な得票数(6割以上)に満たなかったため、2つのリストによる決選投票が実施された。候補者リストと投票結果は以下のとおりである。

 

表 決選投票の候補者リストと投票結果

候補者リスト1:得票39票

候補者リスト2:得票34票

執行評議会議長

ユーネス・メンフィー

(元ギリシャ大使)

執行評議会議長

アギーラ・サーリフ

(代表議会「HOR」議長)

執行評議会副議長

ムーサー・クーニー

(元マリ総領事、元執行評議会副議長)

執行評議会副議長

ウサーマ・ジュワイリー

(国民合意政府「GNA」西部軍管区司令官)

執行評議会副議長

アブドッラー・ラーフィー

(ザーウィヤ選出HOR議員)

執行評議会副議長

セイフ・ナスル

(フェッザーンの部族出身)

首相

アブドゥルハミード・ダバイバ

(ミスラータ出身の実業家)

首相

ファトヒ・バーシャーガー

(GNA内相)

(出所)2021年2月5日付『リビア・ヘラルド』

 

 決選投票により、ユーネス・メンフィー氏が執行評議会議長に、アブドゥルハミード・ダバイバ氏が新統一政府の首相に選出された。また、執行評議会副議長にムーサー・クーニーとアブドッラー・ラーフィーの両氏が選ばれた。新統一政府は、12月24日予定の大統領及び議会選挙までの任期予定である。

 新統一政府の選出を受け、ハフタル率いるリビア国民軍(LNA)は投票結果を受け入れる旨の声明を発表した。またトルコやエジプト、欧米諸国も投票結果を歓迎する意向を示した。

 今後の流れとして、新統一政府は組閣を行い、3月19日までに東部の代表議会(HOR)から承認を得る必要がある。

 

評価

 今般の新統一政府の選定は、昨年10月のGNA・リビア国民軍(LNA)間のジュネーブ停戦合意と、翌11月からのチュニスでのLPDFの成果である。決選投票では当初予想と反し、候補者リスト1の得票数がサーリフHOR議長やバーシャーガーGNA内相などの有力者が含まれる候補者リスト2を上回ったが、同結果に対して異議申し立ては出されていない。今後、新統一政府は閣僚選定や議会承認を予定するが、紛争の当事者同士が合意する同プロセスで大きな混乱が生じる可能性は低いと考えられる。

 新たな執行評議会議長に選出されたメンフィー氏は1976年にトブルクで生まれた外交官出身で、2012年から2014年まで国民議会(GNC)議員、2019年には駐ギリシャ・リビア大使を務めた。また、ダバイバ新首相は1959年にミスラータで生まれ、カッザーフィー政権時に国営リビア開発投資会社(LIDCO)社長を務めるなど、建設業界で影響力を持つ実業家であり、彼の持株会社がトルコにも進出している点などから、トルコと近い人物とみられている。

 今後の注目点は、石油収入の管理と諸外国の部隊撤退といった問題でも進展があるか、である。石油収入の管理については、昨年9月の輸出再開に係る合意では「共同技術委員会」が担う計画であったが、未だに実行されていない。こうした状況下、LNAと連携する石油施設警備隊(PFG)は今年1月、給与未払いを理由にハリーガ石油輸出港を閉鎖した経緯もあるため、今後の進展次第ではハフタル側が再び輸出妨害措置に踏み切る可能性も考えられる。加えて、トルコ軍やロシアの民間軍事会社「ワグネル」なども依然としてリビアに駐留していることから、偶発的な衝突やそれに伴う軍事的緊張の高まりも生じかねない。上記の問題が未解決のままでは、当事者間の対立再燃が停戦合意の破棄や12月選挙の中止をもたらす恐れもある。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「リビア:石油輸出の再開」No.82(2020年9月25日)

・「リビア:ジュネーブで停戦合意」No.93(2020年10月26日)

 

<中東トピックス>【会員限定】

・「リビア:大統領選挙及び議会選挙が2021年12月実施へ」T20-08(2020年11月号)

・「リビア:石油輸出停止への懸念が再燃」T20-10(2021年1月号)

(研究員 高橋 雅英)

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