中東かわら版

№132 サウジアラビア・UAE:バイデン米政権のイエメン政策についての反応

 2021年2月4日、米国のバイデン大統領は国務省で行った外交政策演説で、イエメン戦争を終わらせる必要性について説明した。そして、関連する武器売却を含む攻撃的作戦を停止する一方、イエメンのアンサールッラー(通称フーシー派)による「ミサイルやドローン爆撃の脅威に晒されている」サウジを、引き続き支援すると述べた。またこれに関連し、サウジをはじめ中東各国の大使館で勤務経験のある外交官ティム・レンダーキング氏をイエメン担当特使に任命した。上記演説について、サウジのファイサル・ビン・ファルハーン外相は、サウジの治安・領土の防衛に向けた協力への表明だと評して、バイデン政権の外交姿勢を歓迎した。

 一方、サウジ同様にイエメン戦争に軍事的関与を続けるUAEのアブドッラー・ビン・ザーイド外務・国際協力相は、同日に米国のブリンケン国務長官と電話会談した。会談では、UAEとイスラエルとの国交正常化を経た外交関係の進捗報告とともに、地域の安全保障にかかわる事案で両国が一層の協働を図ることについて協議した。

 なおこれに先立ち、1月29日にはイタリアがイエメンの和平プロセス進展を目的に、サウジ・UAEへのミサイル等の武器売却を停止すると発表していた。

 

評価

 1月末、『ロイター』通信他のメディアは、バイデン政権がサウジ・UAEへの武器売却の停止を決定したと報じ、これは米国がトランプ前政権からの方向転換を図り、2カ国との軍事的協力関係を進めることに否定的な兆候だと捉える向きが見られた。サウジ・UAEはこの報道に特段の反応を示さなかったが、表立った反応で米国の姿勢を硬化させたり、米国との関係に溝が生じたとの認識が国内外に生じたりする事態を避けたかったと考えられる。その後、バイデン大統領は上述の通り、イエメン戦争に関して武器売却を含む直接的な軍事的関与を停止すると述べた。しかしサウジとしては、米国が公式見解としてサウジをイエメン戦争の「被害者」側に位置付け、外交支援を約束したことで、上記演説はひとまず歓迎できるものであっただろう。

 一方でUAEに関しては、最新鋭のF-35戦闘機の売却が依然争点となっている。米国のUAEへのF-35売却は、イスラエルと国交正常化したUAEに対する米国からの報償のごとく捉えられ、トランプ前大統領の任期最終日に決定されたとも報じられた。一方で上述の通り、バイデン大統領はイエメン戦争関与国への武器売却停止について述べたため、UAEからすれば米国が翻意したことになる。これに関して2月2日、米国が同盟国にF-35を売却することに確信を持っているとの駐米UAE大使による強気な発言が報じられたが、米国からの公式説明はない。バイデン大統領の演説が、外交政策とはいえ国内向けのアピールでもある可能性を考慮しても、UAEとしては自国の軍備増強を米国にどうメリットと認識させるかが肝要となる。

(研究員 高尾 賢一郎)

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