中東かわら版

№129 イラン:イスラエル国防軍参謀総長発言に対する反応

 米国でバイデン政権が誕生した状況下、イランとイスラエルとの間で挑発の応酬が繰り広げられている。

 発端は、2021年1月26日にイスラエル国防軍のコハヴィ参謀総長が「国防軍に対し、既存のものに加え複数の軍事作戦計画を新たに準備するよう指示した」と発言したことにある。コハヴィ参謀総長は、イランがウラン濃縮度を20%に引き上げつつ(『中東かわら版』No.121参照)、バイデン政権との核合意(JCPOA)復帰に向けた動きを活発化させていることへの深刻な憂慮から、JCPOAあるいは類似の合意への復帰は悪行に他ならないと断じた。

 これを受けて、翌27日、イランのヴァーエズィー大統領府長官は記者団に対し、「実際のところ、シオニスト体制は攻撃計画も、実行する能力も持ち合わせていない」と述べ、コハヴィ参謀総長発言は「心理戦且つプロパガンダ戦争の一環に過ぎない」と応酬した。ヴァーエズィー長官は、イラン国軍側から攻撃を仕掛けることはないが、もし攻撃を受ければ断固として自衛する立場を示した。同27日にはイラン国軍報道官も、「もしシオニスト体制が僅かでも過ちを犯せば、我々はミサイル基地に反撃するとともに、ハイファとテルアビブを地面に沈める」と牽制した。

評価

 今次事案で注目される点は、米国のバイデン政権がイランとの関係修復を図ろうとしても、他の域内諸国に対し充分な配慮が求められることが顕在化した点である。バイデン大統領は選挙運動期間中より、イランがJCPOAを完全遵守すれば米国は復帰する、とJCPOAへの条件付復帰を明言してきた(『中東かわら版』No.69参照)。一方のロウハーニー政権側も、米国が先にトランプ政権下での過ちを償いJCPOAに復帰しさえすれば、イランも完全遵守するとの立場を明確にしている。両国が歩み寄りの姿勢を示していることはトランプ前政権期と比べて良い兆候ではあるが、双方が条件の履行を先に相手側に求めていることが第一の障壁として指摘できる。更に、今般、イスラエルを含めた第三国による妨害の危険性が浮き彫りになったことで、米イラン関係の修復への道のりが相当険しい点が改めて示された。この意味で、コハヴィ参謀総長による今次発言は、核開発を着々と進めるイランに向けてのものであると同時に、同国に接近を図るバイデン政権を念頭に置いたものだった可能性が高い。米国には、こうした第三国への見返りを含めた難しい対応が迫られる。今後、イランとしては、イスラエルがプロパガンダ戦争を仕掛けていると印象付けることで、バイデン政権がイスラエルからの忠言に従わないよう期待したいところだろう。

 

【参考情報】

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(研究員 青木 健太)

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