中東かわら版

№128 イエメン:反体制支配地域での反米デモ拡大

 2021年1月22日、米国国務省はイエメンのアンサールッラー(通称フーシー派)の「テロ組織」指定をめぐる詳細が間も無く決定されると発表した。これは先立つ10日、トランプ前政権がアンサールッラーを「テロ組織」に指定すると発表したことを受けたものである。アンサールッラーと対立する統一政府(ハーディー大統領)は国際機関に対して、米国に追随してアンサールッラーの「テロ組織」指定を決定するよう呼びかけた。

 これに対して22日以降、イエメン国内のアンサールッラー支配地域では米国に抗議するデモが拡大している。具体的には、首都サナアを擁する北部サナア県、隣接するジャウフ県及びライマ県、北部サアダ県、南部タイズ県において、最大数千人規模の参加者が「米国による封鎖と攻撃はテロ犯罪」との標語を掲げて、「米国とシオニストの謀略に引き続き抵抗する」ことを人々に呼びかけつつ、国連等の国際機関が「米国のテロを黙認している」と非難した。

 

評価

 事態を静観する統一政府と対照的に、アンサールッラー側メディアは上記デモを連日報じている。加えて同メディアは、国内で援助活動に従事する諸団体が、戦争被害の拡大を防ぐために、アンサールッラー「テロ組織」指定を撤回するようバイデン政権に求めていると伝えた。もちろんこれ自体はアンサールッラーにとって有利な証言であるが、実際のところ、トランプ前政権の「テロ組織」指定の発表以来、これがイエメンでの人道支援を滞らせる恐れがあるとの意見が国連内部で出ている。また国連は、現時点で米国の「テロ組織」指定がアンサールッラー支配地域での経済活動に制限を課すものではないとされるにもかかわらず、一部の民間企業が取引の中止・延期を検討している事態も懸念していると報じられた。先立って米国のブリンケン国務長官は「テロ組織」指定を検討すると発言しており、2月には同措置の詳細が決定される予定だ。

 上述のように、アンサールッラーを排除したい統一政府、及びこれを支援するサウジ政府は、当然米国の「テロ組織」指定を歓迎している。この点に関して注目すべきは、アンサールッラー側が報じる抗議の対象からサウジが除外されている点であろう。ほぼ米国に対象を絞った今般のデモ報道には、中東政策における新たな舵取り(トランプ前政権からの方向転換)を模索するバイデン政権に「イエメン戦争」を意識させ、「テロ組織」撤回を新政権の功績とすることを提案しようとの思惑もうかがえる。

(研究員 高尾 賢一郎)

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