中東かわら版

№126 イラン:革命防衛隊が韓国船籍タンカーを拿捕#2(事態の打開に向けた進捗状況)

 2021年1月18日付『聯合ニュース』(韓国の通信社)は、1月4日に発生した革命防衛隊による韓国船籍タンカーの拿捕事案(詳しくは『中東かわら版』No.122を参照)の解決に向けた外交交渉の内幕を報じた。同記事によると、韓国外交部の崔鍾建第一次官のテヘラン訪問(1月10日)に先立ち、韓国はイランとの良好な雰囲気を醸成するためホルムズ海峡付近に派遣した大韓民国海軍ソマリア海域護送戦隊の艦船を域外に移動させた模様である。また、同記事は、イラン側が70億ドル(約7250億円)とも目される韓国国内に滞留する凍結資産に関する問題(以下、凍結資産問題)について、イランは現在支払いを滞らせている国連分担金の支払いに充当(注:韓国の銀行が国連に対し、イランの凍結資産を送金する三者間取引)したい意向を韓国側に伝達し、協議が続けられていると報じた。

 本事案に関し、本日現在までの主要な出来事は下表の通りである。

 

表 韓国船籍タンカー拿捕を巡る主要な出来事

日付

主な出来事

2021年1月4日

革命防衛隊が韓国船籍タンカー「Hankuk Chemi」を拿捕し、バンダル・アッバース港に連行した。

1月5日

イラン外務省は、韓国船籍タンカー拿捕は技術的問題によるものだとして、韓国側に論理的な対応を求めた。また、同省は、韓国外交部次官のイラン訪問は本件と全く関係はないと発表した。

1月7日

イラン外務省は、韓国外交部の一団が凍結資産問題にかかる協議のため、テヘランを訪問中と述べた。同省は、今次訪問は韓国船籍タンカー拿捕以前に合意されたもので、凍結資産問題に関する協議を目的としたものだと発表した。

1月10日

韓国外交部の崔鍾建第一次官がテヘランを訪問し、ヘンマティ中央銀行総裁、ザリーフ外相、及びアラーグチー外務事務次官と個別に会談した。アラーグチー次官は、凍結資産問題は韓国政府の政治的意思の欠如によるものと述べ、早期の解決に期待を示した。また、同次官は、韓国政府は本件を政治化するべきではないと釘を刺した。

1月16日

ハティーブザーデ外務報道官は、韓国船籍タンカーの解放については司法手続きに沿って進められていると述べ、今後の展開は司法の判断次第との立場を示した。

1月18日

『聯合ニュース』は、韓国政府は崔鍾建第一次官のテヘラン訪問(1月10日)に先立ち、イランとの良好な雰囲気を醸成するためホルムズ海峡付近に派遣した大韓民国海軍ソマリア海域護送戦隊の艦船を域外に移動させたと報じた。

1月19日

ヘンマティ中央銀行総裁は『ブルームバーグ』の書面インタビューに応じ、韓国は米国の経済制裁の影響により凍結資産問題を解決する政治的意思を有していないと非難し、これにより生じた損害の賠償を求めるとともに、韓国側に早期解決を要求した。

(出所)公開情報をもとに筆者作成。

 

評価

 本事案発生から2週間以上が経過する中、韓国政府が事態の打開に向けて、派遣していた軍用艦船を域外に移動させた点は注目される。イラン側は、本事案をイラン国内司法手続きに則って進める姿勢を堅持している。このため、表面上、外交努力が果たし得る役割は小さいのが現状である。しかし、韓国側にとって、拘束されている乗組員20名の安全確保は最優先課題であり、こうした前向きなシグナルを発し続けることは重要だろう。これと同時に、両国間では凍結資産問題の解決に向けての交渉が続けられている。19日、イランのヘンマティ中央銀行総裁は『ブルームバーグ』の書面インタビューに応じ、韓国が米国の圧力に屈して2年以上も資産移転を阻んでいることを「政治的意思」の欠如だと強く非難し、早期の解決を要請した。表向き、イランはこれら二つの問題を無関係としている。現時点で予断できないが、こうして物事が平行して進む状況に鑑みれば、凍結資産問題の行方が本事案の解決にも影響を与える可能性が排除されていない。その意味で、凍結資産問題は、本事案が政治性を帯びたものであるか否かを推し量る試金石となる。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン:革命防衛隊が韓国船籍タンカーを拿捕」2020年度No.122(2021年1月6日)

(研究員 青木 健太)

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