中東かわら版

№124 パレスチナ:パレスチナ立法評議会選挙、大統領選挙、パレスチナ民族評議会選挙日程の発表

 2021年1月15日、パレスチナ自治政府(PA)のアッバース大統領は、パレスチナ自治区の立法府に相当するパレスチナ立法評議会(PLC)の選挙、大統領選挙、及びパレスチナ解放機構(PLO)の最高議決機関である民族評議会(PNC)選挙の日程を発表した。パレスチナ自治区で最後に議会選挙が行われたのは2006年1月、大統領選挙は2005年3月であり、実施されれば15年ぶりとなる。アッバース大統領は、中央選挙委員会と関係諸機関に対し、東エルサレムを含むパレスチナ全県での民主的な選挙の実施に向けて速やかに準備を進めるよう指示した。

 

【選挙日程】

・5月22日  パレスチナ立法評議会(PLC)選挙

・7月31日      パレスチナ自治政府大統領選挙

・8月31日      パレスチナ民族評議会(PNC)選挙

 

 国連とEUはパレスチナでの選挙日程の確定を歓迎し、パレスチナの諸勢力も選挙実施の決定を歓迎する旨の声明を発出した。PLO主流派のファタハは、選挙日程の確定はパレスチナ人民の意思の表れ、民族対話の努力の結果であると称賛した。ファタハと対立し、ガザ地区を実質的に統治するハマースも、パレスチナ人民の利益が実現されるべく自由で公正な選挙が実施されることを望むと発表した。その他の諸勢力も、選挙は民族の分裂を終結させ統一に向かう重要な一歩であると称賛した。

 

評価

 2007年のファタハとハマースの武力衝突により、パレスチナは西岸のファタハ(もしくはPA)とガザのハマースに分裂した。その後、エジプトなどの仲介で和解交渉が断続的に行われ、統一政府の結成で合意したこともあったが、全て失敗してきた。したがって、15年ぶりの選挙で合意できたことは分裂解消への第一歩ではある。

 ファタハとハマースが選挙実施の合意にまで漕ぎ着けた背景には、パレスチナの独立を支援する国際的な流れが明らかに弱まり、パレスチナが地域で孤立したことがある。これによってパレスチナ諸勢力はパレスチナ内部を統一する必要性に迫られたと考えられる。パレスチナ内部の統一によって、パレスチナ自身がイスラエルとの交渉の準備が整っていることを国際社会に示し、二国家解決に向けた交渉再開の機運を高めたいねらいがある。

 ネタニヤフ政権は西岸地区入植地のイスラエル主権下への統合を2020年7月に開始すると公言していたが、その時期が来ると、ファタハとハマースは西岸併合計画に対して共同で抵抗することを確認した。

 パレスチナ内の団結をさらに強めたのは、8月から次々に進められたイスラエルとアラブ諸国の国交正常化だった。パレスチナ諸派にとってこれはアラブ諸国の「裏切り」であった。しかし、パレスチナ問題に最も深く関与してきたエジプトは正常化を歓迎し、アラブ連盟やサウジアラビアは明確な非難の姿勢を示さず、パレスチナは域内で孤立した。パレスチナ独立を支援する国際的な流れが弱まる中、9月24日、アッバース大統領(ファタハ)とハマースのハニーヤ政治局長は6カ月以内に議会選挙と大統領選挙を実施することで合意した。そして翌2021年1月2日、ハニーヤ政治局長がアッバース大統領に分裂の解消とパートナーシップの構築、民主的選挙による民族統合を提案する書簡を送り、これをアッバース大統領が歓迎したことで、選挙実施での合意へ向かった。

 しかし、選挙が実施されるまでの過程や実施された後の状況は不確実な事が多い。まず、パレスチナ諸派で選挙制度や諸手続きについて合意できるかという問題がある。ハマースをテロ組織とみなす米国やEUは選挙についてどのような態度を見せるのかも注目される。2つめの問題は、大統領選挙に高齢のアッバース大統領(85歳)が立候補するのかである。立候補しないならばファタハから誰が立候補するのか。ハマースからはハニーヤ政治局長が立候補する可能性が高い。さらに、選挙が実施された場合、選挙結果をパレスチナ諸派が受け入れるのか、ハマースが勝利した場合、ファタハや西側諸国は結果を受け入れるのかという問題もある。このように、選挙の実施をめぐり不確実な要素が多数存在する。さらに、バイデン次期政権の中東政策、対イラン政策、イスラエルでの3月総選挙など、今後、中東及びイスラエル・パレスチナ情勢は流動的になる。こうした情勢においてパレスチナ諸勢力の政治力学がどのように動くか観察する必要がある。

(上席研究員 金谷 美紗)

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