中東かわら版

№123 GCC:首脳会合の開催とカタルとの国交回復

 2021年1月5日、サウジアラビアのウラー市で第41回GCC首脳会合が開催された。今次会合では第38回会合(2017年12月開催)以来となるタミーム・カタル首長の出席が注目を集め、エジプトのシュクリー外相と米国のクシュナー大統領上級顧問も列席する中、ウラー宣言と最終声明への合意を通してサウジ・UAE・バハレーン・エジプトとカタルとの国交回復が決定された。なお先行して4日、サウジはカタルとの間の陸海空の交通封鎖の解除を発表していた。会合主催国サウジのムハンマド皇太子とファイサル・ビン・ファルハーン外相はGCCの結束と安定の重要性を訴え、カタルのタミーム首長もサウジや上記合意の仲介役を担ったクウェイト(2020年9月に崩御したサバーフ前首長にも言及)への謝意を発表した。

 

評価

 詳細は不明ながら、4カ国(サウジ・UAE・バハレーン・エジプト)はカタルとの国交を航空会社の運航も含めて完全に回復したと報じられた。今次会合を経て、2017年6月に始まった4カ国によるカタル封鎖が概ね終結したことになる。4カ国とカタルの国交回復は、これまでもたびたび可能性が報じられながら実現しなかった。しかし昨年11月の大統領選挙に敗北したトランプ米国大統領がレガシー作りの一環でGCC結束に乗り出したことで、同年末からカタル封鎖の終結が俄然現実味を帯び始めた。カタルとしては、アフガニスタン和平交渉の仲介国である自国との関係を米国が重視する状況下、米国の後押しで封鎖を終わらせる好機を迎えたことになる。また4カ国としても、カタル断交による実質的なメリットがあるわけではない状況下、カタルとの国交回復はトランプ政権のレガシー作りへの協力とバイデン次期政権へのアピールも兼ねた得策と言える。加えてCOVID-19感染拡大による経済低迷からの回復がGCC各国に共通する喫緊の課題であることを考えれば、近隣諸国との人の往来や物流の再開は、当事国だけでなく日本を含む諸外国にとっても望ましい措置だと評価できよう。

 ただし今次合意では、カタル封鎖のそもそもの契機であった安全保障上の警戒が解消されたといった明確な言及はない。具体的にはカタルとムスリム同胞団のつながり、およびカタル・トルコ関係がどう変化したのかについては説明がない。特にサウジが警戒していたのは、トルコがカタルを橋頭堡に地域で影響力を強める一方、昨年夏以降のイラクとの関係悪化を通して域内の不安定要因となることで、サウジ・イラン・トルコの三極対立の構図が定着する事態であった。しかし昨年12月のトルコ・イラクの関係改善(カージミー・イラク首相とエルドアン・トルコ大統領とのアンカラでの会談)を経て、トルコと近隣諸国との関係が回復に向かう兆しが見えたことで、4カ国のカタル・トルコ関係への警戒が一定程度和らぎ、このことがカタル封鎖解除を後押しした可能性もある。

(研究員 高尾 賢一郎)

◎本「かわら版」の許可なき複製、転送はご遠慮ください。引用の際は出典を明示して下さい。
◎各種情報、お問い合わせは中東調査会 HP をご覧下さい。URL:https://www.meij.or.jp/

| |


PAGE
TOP