中東かわら版

№121 イラン:ウラン濃縮度20%への引き上げに着手

 2021年1月4日、イランはウランの濃縮度を20%に引き上げる作業に着手した。ラビーイー政府報道官は同日、イラン原子力庁(AEOI)はフォルドゥ核施設において六フッ化ウラン製造作業を開始したと発表した。同報道官によると、今次の動きは2020年12月1日に国会で可決された「制裁解除とイラン国民の利益保護のための戦略的措置」法案(以下、「戦略的措置」法案)を履行するためにロウハーニー大統領の指示に従って行われるものである。同日遅く、キャマールヴァンディーAEOI報道官は、濃縮ウランの製造が成功したことを確認した。

 こうした動きを受けて、4日、イスラエルのネタニヤフ首相は、「イランが核兵器開発を企図してのことに他ならない」と発言し、イランの行動を強く牽制した。

評価

 今次の動きは、ようやくイラン政府が「戦略的措置」法案の履行に着手したもので、積極的に行ったというより、むしろ国会からの圧力を受けて動かざるを得なかったと見る方が実態に近い。昨月1日に国会で可決され、翌2日に監督者評議会によって承認された「戦略的措置」法案は、国会から政府に対し、強い立場からイラン核合意(JCPOA)当事国、及び、米国との交渉に当たるべしと要求を突きつけるものであり、履行違反者には刑罰が科される(詳細は「中東かわら版」No.110を参照)。同法案の第1条には「法案可決後直ちに、AEOIは平和的利用のためのウラン濃縮度を20%へ引き上げ(る)」と謳われているが、政府はこれを粛々と実行に移したものと考えられる。

 注目すべきは、今次の動きが周到に準備されたものである点である。先立つ2021年1月1日、国際原子力機関(IAEA)は、ウランの濃縮度を20%に引き上げる計画についてイランから事前通知があったと明かしていた。同様の事実をサーレヒー長官も認めている上、ウラン濃縮作業をIAEAの立ち会いの下で行うと言明している。イランは無用な批判を避けるためにも、かなり慎重に事を運んでいる様子が看て取れる。

 それでは、ウラン濃縮度を引き上げるイラン側の意図は如何なるものであろうか。アラーグチー外務事務次官は4日、「イランによるJCPOAの履行一部停止は、JCPOA規定に基づくものであり、「JCPOAの死」を意味するわけではない」と明言している。同様に、ザリーフ外相も「今次の動きはJCPOA第36条規定に完全に基づくものである」点を強調した上で、「履行違反を侵してきたJCPOA当事国による完全履行があれば撤回は可能である」との姿勢を示している。1月20日には、米国でバイデン新政権の成立も控える。これらから、イラン側はJCPOAを破綻に追い込むことを目的とはしておらず、制裁解除を実現できなかった欧州3カ国、及び、米国に対して圧力をかけることを狙いとしていると推定できる。 

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「イラン:「制裁解除とイラン国民の利益保護のための戦略的措置」法案の承認とその意味」2020年度No.110(2020年12月7日)

(研究員 青木 健太)

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