中東かわら版

№118 アフガニスタン:第2期ガニー内閣(暫定)が取り敢えず始動

 2020年11月21日、30日、及び12月2日の3日間にわたり、アフガニスタン下院議会で閣僚の信任投票が行われた。結果、ガニー大統領に指名された25閣僚(国家保安局長官、及び中央銀行総裁を含む)の内、20閣僚が信任された。残る5閣僚(下表の空席ポスト)については、改めて大統領が指名した上で下院での信任投票手続きを経る必要があるものの、今次投票により第2期ガニー内閣(暫定)が取り敢えずは始動した形となった。

 今次投票は、本年5月17日に交わされた政治合意に基づき、ガニー大統領とアブドッラー国家和解高等評議会議長が調整(注:両者とも閣僚職50%の任命権を有する)の上で指名した閣僚候補に対し、憲法第64条に基づき下院からの信任を求めるものである(詳しい経緯については「アフガニスタン:包摂的な政府の樹立と含意」『中東かわら版』No.20、2020年5月18日参照)。

 下表は、今回成立した第2期ガニー内閣(暫定)の陣容である。

 

表 第2期ガニー内閣(暫定)の陣容(2020年12月2日時点)

ポスト名

氏名

信任日

備考

外相

ムハンマド・ハニーフ・アトマル

11月21日

P;元内相、元国家安全保障評議会書記

財相

アブドゥルアハーディー・アルガンディウォール

11月21日

P;元経済相;イスラーム党幹部

国防相

アサドッラー・ハーレド

11月21日

P;元国家保安局長官

内相

マスード・アンダラービー

11月21日

T;元国家保安局長官代行

商業相

ナジャール・アフマド・ゴールヤーニー

11月21日

T;元ヘラート州選出下院議員

通信相

マアスーマ・ハーワリー

11月21日

H;元サマンガーン州選出下院議員;女性

労働・殉教・障害者・
社会問題担当相

バシール・アフマド・タインジ

11月21日

U;元ファーリヤーブ州選出下院議員;国民運動党幹部

巡礼寄進相

ムハンマド・ガーセム・ハリーミー

11月21日

P;元聖職者評議会幹部

司法相

ファズル・アフマド・マアナウィー

11月21日

T;元独立選挙委員長

高等教育相

アッバース・バスィール

11月21日

H;ハリーリー元第二副大統領側近

鉱工業・石油相

ムハンマド・ハールーン・チャハーンスーリー

11月30日

P;元大統領府補佐官、元外相代行

農業・灌漑・牧畜相

アンワールルハック・アハディー

11月30日

P;元財相、元商業相;元アフガン民族党(パシュトゥーン至上主義政党)党首

難民帰還相

ヌールラフマーン・アフラーキー

11月30日

T;アブドッラー国家和解高等評議会議長側近

運輸航空相

コドラトゥッラー・ザキー

11月30日

U;元タハール州選出下院議員

都市開発相

マフムード・カルザイ

11月30日

P;元ビジネスマン;カルザイ前大統領の兄

公共事業相

ナジーブッラー・ヤミーン

11月30日

T;元国家環境保護庁幹部

国家保安局長官

アフマド・ジア・サラージ

11月30日

T;元国家保安局幹部

保健相

アフマド・ジャワード・ウスマーニー

12月2日

T;元保健省幹部

経済相

カリーマ・ハーミド・ファーリヤービー

12月2日

U;元国際機関職員、元市民活動家;女性

国境・部族問題相

モヒーブッラー・サミーム

12月2日

P;元パクティカー州知事

情報文化相

空席

-

 

女性課題相

空席

-

 

農村復興開発相

空席

-

 

教育相

空席

-

 

中央銀行総裁

空席

-

 

(出所)公開情報を基に筆者作成。

※順不同。なお、民族表記は右の通り。P(パシュトゥーン人)、T(タジク人)、H(ハザーラ人)、U(ウズベク人)。

評価

 今回の新内閣誕生までに要した長い年月を見れば、アフガニスタンの政治エリートが自らの利権を優先し、同国国民を軽視していることは明らかである。

 第1回投票は2019年9月28日に実施されたものの、ガニー・アブドッラー上位2候補(当時)の間で結果を巡る争いが紛糾し、交渉の末に敗者候補陣営にも利権を分け与える政治的妥協が図られた。最終的に大統領が就任したのは、投票から約半年後の2020年3月9日のことであった。その後、両候補間で政治合意を結ぶのに2カ月以上が経過した上(5月17日に締結)、その合意から更に6カ月以上も閣僚候補の指名までに時間を要した。多民族国家且つ伝統的部族社会であるアフガニスタンでは、従来より政治的に物事を進めるに当たって、利害の調整のため周到な根回しが必要とされる。しかし、こうした一連の流れを見ると、同国の内政において利権の差配が重視され過ぎたあまり、意思決定プロセスが更に複雑化且つ硬直化し、物事が全く進まなくなった実態が窺える。

 今般、ようやく組閣が着手された背景には、2020年11月23-24日にジュネーブで開かれたアフガニスタンに関する国際プレッジ会合が見えない「外圧」として働いた可能性がある。同会合は、ドナー国・機関がアフガニスタンに対する2021-2024年の支援額を公表する重要な会合であり、アフガニスタン政府としてはドナー国・機関向けに受け皿が整っていることを示す必要があった。第1回の信任投票が、直前の11月21日に行われたことは決して偶然でない。

 新内閣の陣容を見ると、国防相や内相といった治安関連ポスト、並びに、外相や財相といった対外関係での重要ポストに経験豊富な政治家が据えられており、また信任された多くが閣僚・政治家経験者であることなどから、全体的に手堅い人選だと言える。他方で、マフムード・カルザイ(カルザイ前大統領の兄)が閣僚入りするなど、第1期ガニー内閣では排除されたカルザイ色が戻ってきた点は注目に値する。これは、ガニー大統領が、カルザイ前大統領の国内政治勢力・部族に対して有する隠然とした影響力に期待してのことかもしれない。

 また、対ソ戦(1979-1989年)で祖国に残り義勇兵として武装抵抗運動を続けた元ムジャーヒディーン勢力の多くが含まれていないことは、第1期ガニー内閣から引き継がれた特徴である。代わりに、カルザイ前大統領やサヤーフ師(元アフガニスタン解放イスラーム連合指導者)等の重鎮が、ターリバーンとの和平交渉を主導する国家和解高等評議会指導者委員会(12月5日に初会合)に名を連ねた。このため、実務を確実に進められるテクノクラートを重点的に閣僚に配し、他方で国内で多大な影響力を持つ元ムジャーヒディーン勢力を和平プロセスに専念させる思惑があった可能性が指摘できる。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記レポートもご参照ください。

 <中東かわら版>

・「アフガニスタン:大統領選挙最終結果の発表」2019年度No.182(2020年2月19日)

・「アフガニスタン:包摂的な政府の樹立と含意」2020年度No.20(2020年5月18日)

・「アフガニスタン:ドナー国・機関の拠出金が減額しジュネーブ会合が閉幕」2020年度No.108(2020年11月27日)

(研究員 青木 健太)

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