中東かわら版

№119 エジプト:下院・代議院選挙の最終結果

 2020年12月14日、国家選挙機構は10月24日から始まった下院・代議院選挙の最終結果を発表した。選出議席総数568のうち国民未来党が315議席(55%)を獲得し、第一党となった。選挙日程、選挙制度、獲得議席の内訳は以下の通り。投票率は20~29%だった。

●選挙制度の概要

(1)個人代表枠284議席:全国の「個人代表区」(定数1の小選挙区)から284人を選出する。50%+1票の得票者が当選となる。過半数票獲得者がいない場合は決選投票が行われる。

(2)リスト枠284議席:全国を4つに分けた各選挙区で、有権者は政党・無所属者から成る拘束式名簿(リスト)に投票する。50%+1票の得票リストが、当該選挙区に割り当てられた議席すべてを獲得する。過半数票を獲得したリストが存在しない場合は決選投票が行われる。

●選挙日程

 

選出議席数

 

第1回投票

14県*

個人代表

142

決選投票(11/23-24)

(10/24-25)

リスト

142

 

第2回投票

13県**

個人代表

142

決選投票(12/7-8)

(11/7-8)

リスト

142

 

 

合計

568

 

* ギザ、ファイユーム、ベニ・スウェーフ、ミニヤ、アシュート、ワーディー・ゲディード、ソハーグ、ケナ、ルクソール、アスワン、紅海、アレキサンドリア、ベヘイラ、マルサ・マトルーフ

** カイロ、カリユービーヤ、ダカフリーヤ、ムヌフィーヤ、ガルビーヤ、カフル・シェイフ、シャルキーヤ、ダミエッタ、ポート・サイード、イスマーイーリーヤ、スエズ、北シナイ、南シナイ

(注)在外投票は別日程で行われた。

 ●獲得議席数

 

(注)個人代表枠1議席が未定。 (出所)現地各紙をもとに筆者作成。

 

評価

 2014年にシーシー政権が成立して以来、下院選挙は今回で2回目となる。反対派の活動が徹底的に弾圧されているシーシー政権では選挙での競争度は低く、政府支持派の勝利が確約されている。リスト区では、シーシー大統領を支持する国民未来党を中心とした政党連合「エジプトのための国民リスト」が全区で過半数票を獲得し、同リストが全284議席を得た。同リストには国民未来党の他、共和人民党、新ワフド党、祖国防衛党、新エジプト党、改革開発党、会議党、エジプト自由党、タガンムウ党、正義党、世代の意思党、無所属勢力が参加した。つまり、上記の議会構成グラフに記述された政治勢力のうち、ヌール党を除く勢力が国民リストに参加した。サラフィー主義のヌール党も基本姿勢は政府支持であるため、下院は政府支持勢力で独占されたと言ってもよいだろう。

 しかし、今次選挙が前回の2015年選挙と異なる点は、前回は無所属議員が議会の多数を占めたのに対し、今回は国民未来党という政党が過半数を制したことである。同党は9月の上院(元老院)選挙でも選出議席200のうち118議席を獲得しており、シーシー時代の議会政治において支配的な地位を確立しつつある。同党の起源は、2014年、軍諜報機関が大統領を支持する組織を全国レベルで結成したことにある。2018年頃から他の政党が同党に合流し、議会内多数派の政党に発展した。この政党合流の背後にも軍の意向があったと言われている。

 議会において国民未来党が支配的な勢力として台頭したとはいえ、シーシー政権が軍を最高意思決定者とする体制であることに変わりはない。国民未来党は軍及び大統領の強い影響下に置かれている。軍は、国民未来党を通じて今次選挙で議会内の政府批判勢力を排除したと考えられる。

 

【参考情報】

*関連情報として、下記もご参照ください。

・「中東トピックス(2020年10月)」No.T20-07(2020年11月4日発行)【会員限定】

・「エジプト:議会選挙の結果(暫定)」『中東かわら版』2015年度No.139(2015年12月14日)

(上席研究員 金谷 美紗)

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